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大手英米メディアの自衛隊報道
<番外編、米ミサイル防衛迎撃実験失敗報道 3>

(報告:常岡千恵子)



2004年12月17日付  朝日新聞朝刊4面 
  朝日は、翌日の朝刊で、ミサイル迎撃実験失敗に対する官房長官の反応
を控えめに伝えた。

2004年12月17日付 日経新聞朝刊8面
  一方、日経新聞は、米戦略国際問題研究所と共催したシンポジウムの記
事を掲載し、リンカーン・ブルム・フィールド米国務次官補が「自衛隊の
イラク派遣やミサイル防衛など日本の国際貢献を評価」と伝えた。
  ひょっとして、日経新聞自らが招待した米国のお偉方に気配りして、産
経より小さな記事にしちゃったのかな?

2004年12月17日付  日経新聞夕刊2面
  で、同じ日の夕刊で、大野防衛庁長官とベーカー駐日大使が日米ミサイ
ル防衛覚え書きに署名した、と遠慮がちに伝える日経新聞。

2004年12月17日付  毎日新聞夕刊5面
  毎日新聞も小さい扱いだけど、日米政府のミサイル防衛覚え書き署名と、
実験失敗の米政府の反応を並べて報道。これだと、一応、実験失敗の直後
に日本が署名したことがわかる。

2004年12月17日付  読売新聞夕刊2面 
  読売新聞は、意図的に見つけにくくしているかのような小さな見出しで、
チョロっと覚え書き署名を報道。
 
2004年12月18日付  朝日新聞朝刊4面 
  朝日新聞は、一歩遅れて長官の覚え書き署名を伝えた。ミサイル防衛実
験失敗報道に関して頑張ってきたのに、これじゃ、トホホ計画に署名して
いることがわからない。
 
2004年12月18日付  産経新聞4面 
  産経新聞は夕刊がないので、遅れを取ったのはしょうがないとして、い
つもの勇ましい防衛報道とは対照的に、覚え書き署名記事は、えらく控え
め。


  それにしても、日本にとっても重要なニュースが、なぜこんなに小さく
扱われるんだろう?
  各紙の読者相談室に尋ねてみると……。

  産経「どうなんでしょうねぇ。ちょっと申し訳ない。(日本にとって大き
なニュースだと思うが、と指摘すると)必要だと思うんですがねぇ。ハイ、
ここの部署ではそういう回答を持ち合わせていないので、申し訳ないんで
すが。ご要望やご意見を取り次ぐ役目しかないもんで、取材の方には今の
段階では直接聞けないんですよね。とにかく紙面を見ていただければ、そ
のうち出てくると思いますので、よろしくお願いします。」
 ――2004年12月24日に、米国防長官がミサイル防衛の年内稼
動を断念すると表明したことを伝える短い共同電と、2005年1月14
日に米ミサイル防衛庁長官が実験失敗は技術的問題だと説明したことを
報じる小さな記事を掲載した以外は、2005年1月14日現在まで、実
験失敗を検証した記事は出てないんですけどぉ・・・・・・。


日経「確かに短い記事でしてね、おっしゃるように、これはもっと大き
な意味のある記事であるべきかとお考えになるのもそうかなと思います
ね。これは私も個人的にはそう思います。これは、覚え書きの締結に配慮
してとか、そういうことでは全然ございません。覚え書きの締結自体もそ
んなに大きな記事ではございません。ただ、うちの新聞は共同通信の配信
で、限られた人数の中でそこまでカバーできなかったのかもしれません
ね。じゅうぶん手が回っていなかったということかもしれません。」
  ――ワシントンの国防総省が発表したのに、手が回らなかったとは、ど
うも苦しい言い訳のような……。

  毎日「ひとつは、アメリカの新聞が大きく扱っているのは、アメリカに
とっては国内問題ですよね。日本にとっては、MD(ミサイル防衛)とい
うことでいえば、今後の防衛大綱ということで国内問題ですけれども、そ
の実験をアメリカがしたというのは、海外の問題ですよね。(日本はミサ
イル防衛に巨額のカネを費やしていると指摘すると)決して小さく扱って
やっているということじゃないんですよ。MDに関しては、できるだけわ
かりやすいように、別途Q&Aというかたちで何度か連載しているわけで
すから、これを軽い問題と捉えて紙面を作っているわけじゃございませ
ん。」
  ――やはり、対岸の火事? ちなみに、Q&Aのコーナーは、実験失敗に
ついては触れていなかったのでした。

  読売「それは、こちらの判断でということしか、いいようがないですね。
もう紙面になったものですからね、こちらの判断ミスかもしれないですけ
ど、こちらの判断だということでご了解いただくしかないわけです。(覚
え書き署名との因果関係は)ないと思いますけどねえ。」
  ――ひたすら"こちらの判断"を繰り返し、説明になっていない。


  さて、唯一充実した報道を行った朝日はといえば……
  朝日「これは、私どもの特派員が詳しく調べることができたということ
で、詳細が載せられたと思います。特派員は一人で広い範囲を受け持ちま
すので、各社差が出るかもわかりませんが。(ミサイル防衛は日本にとっ
て重要なニュースではないか、と指摘すると)本当なら私も、一面でもい
いかなと思うくらいの内容ではありますよね。これは、日本と直結してま
すよ。」
  ――読者相談室担当者は、ミサイル防衛の重要性をさほど認識していな
かったような印象も多少あるが、編集担当者は十分認識していたに違いな
い。
 さすがは、朝日!


  と・こ・ろ・が、である。
  2004年12月22日付朝日新聞朝刊に、仰天紙面が登場した!

 何と、16・17面の見開きで、延々と陸・海・空自衛隊幹部の座談会
を掲載したのである。 朝日よ、おまえもか!!

  とくに、サマワ帰りの番匠幸一郎・陸上幕僚監部広報室長は饒舌で、「旧
軍から受け継いできた『武』の伝統」や海外活動の蓄積を強調。

  日本の大手メディアは軍事に疎く、国際的尺度で軍隊を評価できる記者
が少ないのか、自衛隊に対して甘い。そのうえ、2004年4月から日本
人記者がサマワにいないから、日本国民はごまかせるかもしれないが、海
外メディアはちゃーんと見ているんだゾ!


  外国紙が報じた、サマワの自衛隊のトホホな実態は、こちらを参照

    大手英米紙のサマワ自衛隊報道1 
    大手英米紙のサマワ自衛隊報道2 
    大手英米紙のサマワ自衛隊報道3

  さらに番匠氏は、自衛隊の将来像を聞かれ、「唯一の陸上防衛力」と述べ
ているが、この人にとっての自衛隊とは、陸上自衛隊だけなんだろうか。
統合運用は、どうした?!
  また、「警察は治安組織だから、私たちのような国家の主権を守ること
を目的とする組織とは役割が違う」と誇らしげだが、現時点では、お巡り
さんや消防士さんのほうが、殉職者が多いのだ。

  質問者の本田優・編集委員は、鋭い質問をまったく投げかけておらず、
古庄海上幕僚長の政治的発言(こちらを参照)にも、米国の迎撃ミサイル
発射実験失敗にも触れていない。

  そして何より、本田氏は座談会に内局の代表者を呼ばずに、制服組の主
張を一方的に垂れ流したあげく、衝撃的な論説を並べた。
 
2004年12月22日付  朝日新聞朝刊17面 
  本田氏は、「死の危険は、警官や消防士、昨今は外交官も負う。だが、
『国の主権や国益を守る』という目的のために、命令に服従し、犠牲もい
とわないことを隊員に義務づけている点が異なるのだ」と、番匠発言を復
唱して自衛隊を持ち上げまくる。"産経新聞もビックリ!"だ。

  さらに、「問題は自衛隊を運用する政治の側が、コントロールする自覚
と力を欠いているのではないかと思われる点だ。……国際安全保障の現場
を体験する自衛官の発言力は、一段と増すことだろう」と続け、サマワの
実態を厳しく検証もせずに、あたかも2・26事件を容認するかのような
記述である。

  今の日本の政治が情けないことは、認める。しかし、それはわれわれ国
民の責任であり、国民が政治を向上させればよいのである。
 確かに防衛は重要事項ではあるが、自衛隊の権限拡大は禁物だ。

  軍隊が国民に仕えるのは、民主主義国家では、あたりまえのことであり、
神聖視する類のものではない。
 それは彼らの仕事であり、他の職種よりも尊いとか、卑しいとかいうこ
とではない。

  思い起こせば、2・26事件当時も政治がひどく腐敗しており、国民は
クーデターに同情的であった。
  この時、情緒的な日本国民が、よよよと軍人を甘やかしたからこそ、軍
は図に乗っていよいよ暴走に勢いをつけたのである。

  われわれは、決して同じ過ちを繰り返してはならない。
 本田氏は、日本史をご存じないのかしらん?

  軍国化を煽った日本のメディアの無責任ぶりは、数十年経た現在も相変
わらずだ。
  1930年前後の初期の言論統制は、決して軍が一方的に力づくで強制
したものではない。
 メディア自らが極度の事勿れ主義に陥り、権力との癒着を欲したのであ
る。

 そして今や日本のメディアはすっかり先祖返りし、一斉に"自衛隊バン
ザイ!"狂騒曲を奏でる始末。
 その論理的根拠を欠いた、情緒不安定的な豹変ぶりには、驚くばかりで
ある。

 10年前までは自衛隊が何をやっても叩いていたのに、とくにここ2,
3年は、メディア自身が愛国心に駆られ、オリンピックの日本選手応援団
よろしく、ロクな検証もせずに自衛隊を甘やかし続けてている。
  これでは、自衛隊の諸君が混乱し、舞い上がってしまうのも、致し方な
いことなのかもしれない。

 本田氏には、ぜひとも、過去の朝日新聞の過ちをグラフィックに暴いた、
10年前の名著『読んでびっくり 朝日新聞の太平洋戦争記事』をお勧め
したい。
  検証もせずに、お友達の軍人の自慢話を垂れ流すことの危険性を、じっ
くりと勉強していただきたいものである。

  この点を読者相談室にただしてみると、
 「朝日新聞の自衛隊50年の連載の特集ものなんですが、大きすぎます
か。写真なども含めて、ちょっと派手にやりすぎでしょうかね。内容は、
私も読んだかぎりでは、あまりなかったような感じですねぇ。(サマワの
現状が伝わっていないことや、外国紙の報道内容を指摘し、番匠氏の主張
だけを取り上げることの危険性を指摘すると)わかりました。読者の貴重
な意見として本田に伝えたいと思います。」

  自衛隊のポチとなり下がった本田氏に、猛省ヲ求ム!!!