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英語圏大手メディアの"沖ノ鳥島"報道4

(報告:常岡千恵子)



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『アイリッシュ・タイムズ』(アイルランド) 2005年4月9日付
     −東アジアの国々は、ナショナリズムを封じ込める必要がある

  今週、イスラマバードで、韓国の外相が日本の外相に、教科書問題につ
いて、話をした。
  彼は、日本の教科書が、日本の凶悪な帝国主義による韓国の侵略を取り
繕い、また、2国間で領有権争いをしている島を韓国が不法占拠したと書
いてある、と苦情を呈したのだ。

  中国でも同様の感情が示され、日本製品に対する抗議デモや、海洋の礁
である沖ノ鳥島をめぐる緊張悪化につながった。

  これらの国の間では、経済や政治的な相互依存が進んでいるにもかかわ
らず、それぞれナショナリズムが高まっている。
  それは、過去の日本の帝国主義支配をめぐる諸問題が未解決であること、
また、貧弱なエネルギー資源をめぐる競争、そして、強力なグローバル・
プレイヤーとして台頭する中国と、それを封じ込めようとする米国の間で
変化する、地域の戦略的バランスによって、煽られている。

  これは、単なる心理的遺物ではなく、戦後日本が米国の事実上の軍事保
護国となったことに、深く関わっている。

  ヨーロッパにおけるドイツとは異なり、東アジアでは、主要国間同士の
信頼がより薄い。

 中国の革命と朝鮮戦争の後、主として米国が日本の再軍備化の歯止め役
を努め、冷戦終結までこの役割を果たした。
 そしてその十数年後に、新たな戦略的現実が出現した。
 経済・政治における中国の巨大な潜在能力に、全世界が適応しなければ
ならなくなったのだ。

 中国の台頭で、日本は米国との関係を強化させ、さらに中国や北朝鮮の
核兵器に備えるための軍備増強や、憲法改正の必要に迫られるようになっ
た。
 だが、信頼のネットワークがなければ、日本の積極的軍事行動は中国や
韓国に疑われ、また、未解決のままに放置された日本の過去の帝国主義支
配をめぐる問題によって、関係は悪化する。

 これらの争いは、国連安保理常任理事国入りをはじめ、国際システムの
変化に適用しようとする、日本の外交政策にも影響を与えている。
 韓国は明確に反対を表明し、多くの中国人もそうした。
 日本の自民党支持者たちも、自らの新たなナショナリズムで応酬した。

 近年、韓国では、反日のみならず、反米ナショナリズムも出現し、北朝
鮮への支援や、統一の模索がこの動向を刺激している。

 韓国もまた、経済力と地域でのより大きな役割に自信を深め、米国への
戦略的依存を薄める必要を感じている。

 一方で、多くの評論家が、中国の新しいナショナリズムを、この広大な
国を支配エリートがまとめる上での、政治的・社会的接着剤だとした。

 中国のナショナリズムは、急速に経済的依存が深まっている、日本、台
湾、米国に向けられている。

 最近、全国人民代表大会で成立した反国家分裂法は、台湾が独立を宣言
した際の軍事行動を正当化するもので、先述の感情を表している。

 この法律は、中国と、EUの関係にも影響を与えた。
EUは、1989年の天安門事件以来執行してきた武器禁輸の解禁を検
討してきた。
 結果として、ヨーロッパが輸出した武器が台湾危機の際に使用されるか
もしれないことになり、米国の武器輸出解禁の反対は強まり、なおかつ説
得性を持った。

 ヨーロッパと米国では、1945年以降の戦争経験が異なるため、中国
に緊急事態が起きた時には、異なる対応を行うだろう。
 イタリアのアナリスト、マルタ・ダッスとトベルト・メノッティによれ
ば、米国人は、中国を、まもなく必然的に政治的・軍事的ナショナリズム
に重心を移し、東アジアの大国として地域の支配者となる経済大国だと見
る。
 他方、ヨーロッパ人は、中国を、世界と一体化してのみ繁栄することの
できる、急速に発展中の社会で、中国はこれによって政治的責任を果たす
国になる、と捉える。

 米国とEUは、東アジア諸国が、それぞれナショナリズムを封じ込めて、
北朝鮮に対し多国間の枠組みを構築した協力関係を発展させる必要があ
るのと同様に、中国について真剣な対話を行わなければならない。

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 日本の大手メディアが伝える"外国"や"世界"とは、米政府であるこ
とが多い。
 また、他国の事情を取り上げるにしても、ふだん行っている国内報道同
様、政府の見解をそのまま垂れ流す傾向が圧倒的に強い。

 日本を利用したい米政府は、日本政府と接する時は非常に甘いことを言
うが、ごく一般米国人の対日感情は、いまだに"Remember Pearl
Harbor!"を引きずっていることが多い。

 さらに、米政府ほど日本の利用価値を見出していない英国やオランダ、
オーストラリアなどの国民は、日本の戦争責任に対して米政府より遥かに
厳しい見方をしているのだが、何せ日本のメディアがいうところの"外国"
の大半が"米政府"だから、他国民の厳しい見解はなかなか日本人に伝わ
らない。

 ちなみに、近年の日本の変化に対して、米国の一流メディアは、米政府
とはまったく異なる見方をしているという例を以下に示そう。

続く