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大手海外メディアの『男たちの大和/YAMATO』報道3

(報告:常岡千恵子)



では、お次はフランスの通信社の報道の要約をご紹介しよう。
 
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AFP通信(仏)             2006年1月8日配信
    −戦時の犠牲に敬礼する日本映画が、若者の心の琴線に触れる


 『男たちの大和』を観た28歳の男性は、冒頭シーンから泣き始め、こ の日本の第二次世界大戦の物語の最新作の幕が下りたときには、愛国心を 持つことが悪いとは思えなくなった。  彼は、映画鑑賞中に涙を流すことに何の抵抗も感じなかった。  横に並んでいた3人の友人たちも、泣いていた。  この日本最新の戦争映画は、おおむね平和主義なこの国で、現在の繁栄 は戦没者に負っていると考える人たちが増えている時期に、公開された。  この映画の製作者たちは、戦争の美化を否定している。  ちょうど小泉首相が、物議を醸している彼の靖国神社参拝は、軍国主義 を賞賛するものではなく、戦没者に敬意を表しているのだと言っているよ うに。  戦後の日本人は、過去の軍国主義によるアジアの国々に対する侵略につ いて、悔恨の念を抱いてきた。  しかし、終戦から60年を経て、日本の愛国主義が強まり、アジアの隣 国に警戒感を抱かせるとともに、この地域での日本の国際関係を緊張させ ている。  小泉首相が率いる与党は、米国から与えられた平和憲法を改正し、公式 に軍隊を保持していることを認めるつもりだ。  『男たちの大和』は、12月17日の封切りから1月3日までの間に、 158万人もの観客を集めた。  これは、ハリウッド製の『キングコング』の観客数113万人を超える 数字だ。  一ツ橋大学の吉田裕教授によれば、『男たちの大和』は、侵略より犠牲 を強調する、日本人の第二次世界大戦に対する新たな視点を内包している。  「戦争を美化する新しい現象です。昔の戦争映画は、常に、このような 意味のない任務を命じた日本海軍の上層部に対し、批判的な見方をしてい ました」と吉田氏はいう。  彼はまた、「日本経済が長期的に停滞した、1990年代のいわゆる失 われた10年の後で、自国に対する自身を失い、今、多くの人々がナショ ナリズムに慰めのようなものを求めています」と付け加えた。  この2時間半の作品には、日本映画界のトップ俳優が出演している。  佐藤純弥監督は、戦艦の無名の乗員の情緒的な人間関係を盛り上げる。  日本では、ナショナリズムの昂揚を反映してか、『男たちの大和』の前 に、『ローレライ』、『亡国のイージス』、『戦国自衛隊1549』といった、 一連の戦争映画が公開されている。  作家でもある、有名なタカ派の石原慎太郎東京都知事は、2007年春 公開に向けて、カミカゼ映画の製作を予定している。  『俺は、君のためにこそ死ににいく』と題するその映画では、第二次世 界大戦でカミカゼの特攻任務を命じられた若者たちと、死の旅に発つ彼ら の世話をした女性が描かれる。  強烈な中国批判で知られる石原氏は、1989年のベストセラー『No といえる日本』を共著し、日本は同盟国の米国に対しもっと強気で対応す るべきだと唱えた。 。。。。。。。。。。。。。  やはり、この映画のメッセージは、製作者がなんと言おうが、涙、涙の 愛国心昂揚と捉えられるようだ。  それは、この記事が指摘するように、いくら小泉首相が軍国主義を賞賛 するつもりで靖国神社参拝をしているのではないと弁明しても、アジア諸 国のみならず、欧米においても、まったくの空回りに終わっている構図と ピッタリ重なる。  近年において、日本の首相が、これだけ日本の同時代文化を象徴するよ うな存在になるのも、珍しい。  他人の意見を一切黙殺し、自分の事情だけにこだわるという姿勢は、『男 たちの大和』に見られる視点もそうだが、あの戦争時の独善的な日本を、 鮮やかに再現しているといえよう。  せっかく、これほどまでリアルに過去の日本を見せてくれているのだか ら、今度こそは同じ過ちを繰り返さないように、小泉首相や東京都知事、 一連の軽薄な軍隊ブームを反面教師として、冷静に思考し判断することを 学ばなければならない。  彼らが示している頑迷さや国際オンチぶりこそ、あの戦争を招いた元凶 なのだから、その意味では、『男たちの大和』は、あの戦争そのものであ る。  ひょっとして、佐藤監督は、観客がそれを客観的に捉えて理解できるか どうか、試しているのかもしれない。  それにしても、やはりフランスのメディアも、去年からの軍隊もの邦画 ブームと、小泉首相の強硬路線と、憲法改正の動きに、関連性を見出して いる様子。  民主主義国家なのに、まるで統制されているかのように、感情的に一方 向に、どっとなだれ込む現代日本人は、やっぱり60年前の影を引きずっ てる?