戦争・軍事 |東ヨーロッパ

味方を撃ってしまった瞬間




1800メートル離れた稜線に、黒煙が上がった。
発射したのは、クロアチア軍の152ミリ榴弾砲。
最前列の戦車部隊6台とともに行動していた私は、
「あの位置に敵がいるのだたしたら、自分たちは、瞬時に集中砲撃されてしまう
ではないか」と、ギョッとした。

すると、観測班長が「うわっ、ダメだよ。味方の偵察部隊のところに着弾させて
る」と、渋い顔をしていた。

あの稜線の頂上付近はすでに、クロアチア軍の偵察部隊が確保していて、そこ
で、弾着観測をしながら、後方から撃つ味方のへ砲撃を敵に命中させられるよう
に座標指示をしていたのだ。

砲弾は、稜線越えをしなければいけないのに稜線手前に落ちてしまった。弾道が
低くて、砲弾は稜線を越えずに、味方偵察部隊側に着弾してしまったのである。

その後の11時間に及ぶ砲撃戦を見てわかったのは、このときの友軍撃ち(フレ
ンドリー・ファイヤー)は、弾道が低かったからではなく、砲弾を発射したとき
の装薬の不完全燃焼によって、弾が手前で落ちてしまった可能性が高いことがわ
かった。砲撃戦が続くと、不発弾がかなり多いことが実感できる。不発は、着弾
時の信管不発だけではなく、射撃時にもあり、撃った弾にスピードがつかず、数
十メートル手前に落ちることも珍しくない。

さすがは、品質不良兵器によるボスニア・バルカン戦争だ。

友軍射撃による被害、負傷2名。


1992年10月下旬、
ボスニア南部、トレビノ戦線。ドブロブニク北方。