インフラ海外拠点イラク

元自衛官参議院議員センセイの軍事知識

(イラク占領軍シリーズ15)
(報告:常岡千恵子)


 2004年、陸上自衛隊イラク派遣先遣隊長、第1一次復興業務支援隊
長としてオランダ軍とともにサマワに駐留し、2007年7月の参院選で
めでたく国会議員センセイとなられた、佐藤正久氏。



2007年9月5日付『毎日新聞』夕刊2面 

 翌2007年8月には、早速、サマワで憲法違反とされる"駆け付け警
護"を行うつもりだったとテレビで発言し、物議を醸した。

 そして、2007年9月5日付『毎日新聞』夕刊2面に、この件に関す
るインタビュー記事が掲載された。

 記事中、佐藤正久センセイは、"多くの国民はわかってくれていない"
とひとしきり釈明されたのち、政治家になられて気持ちが大きくなられた
のか、以下のように発言された。



2007年9月5日付『毎日』新聞夕刊2面 

 お世話になったオランダ軍より自衛隊が上!!
 その根拠は、組織の大きさや装備に置かれているようですが・・・
 装備が外国軍より立派ということは、予算を増やす必要ないということ
でございますよね?

   確かに、ピカピカだったらしいサマワ自衛隊の装備↓
   ・大手英米紙のサマワ自衛隊報道 2

 あの〜、お言葉ではございますが、サマワのオランダ軍は、車両の幌や、
ヘルメットやサングラスの使用をなるべく控え、地元住民に威圧感を抱か
せないようにして彼らとの交流を重視する手法を採用していたのですが、
ひょっとすると、オランダ軍宿営地に居候させてもらいながら、お気づき
になっていらっしゃらなかったのでしょうか?


  "ダッチ・アプローチ"で活躍するサマワのオランダ軍↓
  ・大手英米紙のサマワ自衛隊報道 3


 自衛隊の方は、世界最強の米軍だけを手本にすればよいとお考えなのか
もしれませんが、人道支援などは、むしろ力まかせの米軍よりも、人権意
識(日本人の苦手分野)が高く、人との接触(これも日本人は最高に苦手)
を重んじるヨーロッパ民主主義国軍の手法のほうが、参考になる点もある、
ということをまるでご存じないようなご発言。
 

 オランダ軍はアフガンでも武力行使を抑制したソフト・アプローチ手法
を採用しておりましたが、もしかすると、佐藤センセイは、オランダ軍人
との同居中に、情報交換などは、なさらなかったのでしょうか?

 それとも、軍事とは、ひたすらガンガン撃ちまくることだけだと信じて
いらっしゃるのでしょうか?
 実は、米軍でも人権教育を行っておりますが・・・

   戦地における地元住民との接触を教えない自衛隊教育↓
  ・庁カラ省ヘノ格上ゲニ際シ、『戦史叢書』ヲ検証ス

 ところで、佐藤センセイがオランダ軍評価の基準のひとつになさってい
る、武器の性能という点に関しても、佐藤センセイはサマワ派遣に携帯な
さった武器選択の根拠をうまく説明できなかったようですが・・・↓

   ・戦車兵神博行の自衛隊チェック1


 以上が、佐藤発言についての、純粋に軍事的観点から感じることである。

 よく日本人は"カタチから入る"といわれるけど、やっぱり、活動の中
身や具体的成果より、組織の大きさとか装備の性能、つまり表面的なカタ
チに目が行ってしまわれるのだろうか・・・
  

 さらに、現実の軍事は常に外交と絡んだものであり、純粋な軍事は存在
しえない。
 軍事とは、相手があって成立するものであることは、基本中の基本。

   日本人が苦手な、軍事と外交の絡みと戦争の作法を教えてくれる、
      参考図書↓
   ・「八月の砲声」

 とくに日本を代表して海外に赴く場合、ましてや隊長となれば尚更のこ
と、外交官としての資質が要求される。

 しかも、すでに自衛隊員ではなく国会議員になられたのだから、その発
言はさらに重みを増す。

 ま、日本の政治家は首相からヒラ議員にいたるまで、とくにここ数年、
世界を驚愕させる発言を連発してきたけれど、安全保障通を自負する政治家
なら、国際的影響を常に念頭に置かなければならない。

 とりわけ昨今の日本の安全保障通とされる人々は、この点に無頓着な人
が圧倒的に多いが、自らの基礎知識の欠如を晒しているに等しい。


 そして、全国紙でこのような発言をなさったということは、当然、駐日
オランダ大使館員の目に入ることも覚悟の上でございますわよねぇ、佐藤
センセイ!

 ちなみに、オランダは、旧敵国(といっても約五十カ国!)の例に漏れ
ず、なかなか厳しい対日観を抱いている。

 これまた、日本の大手メディアは報じなかったが、2007年3月の安
倍総理の慰安婦失言に対して、オランダ首相は"不快な驚き"と述べ、オ
ランダ外相が駐蘭日本大使に失言について説明を求めた。


2007年3月17日配信AFP電


 駐日オランダ大使館員が、佐藤センセイのお言葉をどう受け止めたかは
定かではないが、面倒を見てやった本人からこのように公言されては、呆
れるばかりかもしれない。

 サマワの自衛隊は"義理・人情・浪花節"で住民と交流を図ったと主張
する自衛官もいるが、これでは義理も人情もあったものではない。

 ついでに言うと、安倍総理の慰安婦失言の際には、オーストラリア首相
も河野談話の堅持を求め、カナダ外相も、慰安婦問題を忘れてはならない、
と述べた。



2007年3月15日付『ジ・オーストラリアン』



2007年3月21日付『エドモントン・ジャーナル』


 一方サマワでは、第5次イラク復興派遣支援群長が、失言でオーストラ
リア政府に迷惑をかけた。

   ・英語圏大手メディアの自衛隊報道 1
   ・英語圏大手メディアの自衛隊報道 2
   ・英語圏大手メディアの自衛隊報道 3
   ・英語圏大手メディアの自衛隊報道 4


 もちろん、旧敵国のオーストラリアの対日観も厳しい。

   ・小泉ニッポン!"極秘オーストラリア攻防戦"劇場

 日豪関係といえば、2007年春に日豪安全保障宣言を出したけど、
オーストラリアの2007年秋の選挙では、親米現政権より中国寄りの労働
党政権が成立する可能性が大きい。

 安倍総理さながらの"空気読めない"国際感覚で交流を続けていると、
いつしか相手にスーッと引かれてしまいかねない。

 旧敵国側の感情を研究し、これを悪化させないように努めるのが国益で
あり、政治家というものだ。(日本はその反対のような気がするが・・・)

  旧敵国の対日感情理解のための参考図書↓
   ・「容赦なき戦争」


 ところで、自衛官を辞めたはずの佐藤センセイは、うれしさで舞い上が
られたのか、2007年8月の初登院時に、国会に敬礼するというパフォ
ーマンスを披露された。

 自衛官を辞して国会議員の職につきながらの、このケジメなき"たるん
だ"行動は、軍事や外交はおろか、国会議員として必要不可欠な民主主義
そのものの基礎知識をご存じないのではないか、と疑わせるものであった。

 国会議員とは国民の代表である。

 なのに、佐藤センセイは自衛隊の代表になろうとしていらっしゃるので
あろうか?
 私の祖国を自衛隊の"隊益"に沿うよう動かすために、国会に出動なさ
っているのであろうか。

 軍人による政治支配がどのようなものであるかは、その昔、われわれの
先祖が身をもって教えてくれた。

 その尊い教えを胸に、空疎な自己顕示欲を抑制し、地道に修行を積んで、
政治家としての基本をコツコツと身につけていただくよう期待したい。


   『八月の砲声』、『容赦なき戦争』以外にも、
      佐藤センセイにお勧めしたい参考図書↓
	  ・「失敗の本質―日本軍の組織的研究」


続く