通信アナリストの眼 INDEX


渡辺真由美のフリー・通信アナリストの眼




10月14日 空爆初日のユナイテッド航空837便
米空軍によるアフガニスタン爆撃攻撃が始まった10月8日、私はユナイテッド航空
837便(UA837)で成田から香港に向かった。UA837便はサンフランシスコ発成田、香
港経由でシンガポール行きの定期便で、成田には午後2時ごろ、乗客乗員およそ250
名を乗せたボーイング767型機が到着する予定であった。しかし空爆開始でサンフラ
ンシスコからの出発が遅れ、2時間遅れで成田に到着した。当日、米国から飛んでく
る全ての便の到着は数時間遅れた。しかし米国FAA連邦航空局が空港を閉鎖せず、ス
ケジュール通りに民間空路を運行させていたということは、米国は空爆開始直後、第
2の航空機テロが起こる可能性は低いと踏んだのだろう。
成田空港では手荷物検査がより厳しくなったとのことであるが、警備員が目立って増
員されたのは搭乗ゲートで、3人の組2組が搭乗前の乗客の荷物とボディチェックを
行っていた。それも全ての乗客ではなく、体格の良いもの、挙動不審な者等だけを選
別していた。私が乗ったUA837便にはターバンを頭に巻き、髭を生やしたラディンの
ような出で立ちの男性がいたが、彼はノーチェックだった。手荷物、および預ける荷
物はセンサーで中身がチェックされるが、それはいつものこと。また全ての荷物が空
けられ、すみずみまで見られるということではなかった。

手荷物を検査する警備員は申し訳なさそうに「刃物などはお持ちではありませんね。」
と尋ね、ないと答えれば荷物を開けることもなく、さらに「どうぞお気をつけていっ
てらっしゃい。」と丁寧に言葉をかけてくれた。あと変わったことと言えば、空港内
のアナウンス。「刃物等の持込は禁止です。米国連邦航空局の要請でご搭乗される前、
手荷物とボディチェックを行います。どうぞお客様のご協力お願いします。」という
優しいご親切なご案内が頻繁に流れた。これが外国だと空港当局は「米国連邦局の要
請なので申し訳ないがお願いします。」と利用客に頭を下げてくれない。米国連邦局
は外国の空港の保安ランキングを公表していることもあって、特に下位にランクされ
ているアジア諸国の航空当局に対しては威圧的である。しかし外国であれば、空港当
局はアメリカの外圧があったとは顔にも出さず、利用客には「当局への協力は義務で
あり、それは国籍、便名に関係なく全ての乗客にあてはまる。当局への協力を拒む者
を拘留される場合があるので、職務質問には応じよ。」と、面子を守るとばかり、と
ても威圧的な態度で出てくるであろう。
ノー天気な日本人観光客は「アメリカの航空会社はスチュワーデスがオバサンばっか
だから客がつかないんだ。だから遅れるんだ。今客を集めているところだろ。」と冗
談を飛ばしていた。気の毒なのはユナイテッド航空の乗務員、特にアメリカから飛ん
できた者は目に見えて疲れていた。当然ながら緊張していた。機内アナウンス内容を
始めとして、フライト運用マニュアルが変更され、乗務員にとって本日のフライトは
またいつもと違っていた。同時多発事件後、体格の良い男性のチーフパーサーが10数
分おきにサービスをするふりして機内を巡回し、乗客の挙動に目を光らせる。気にな
る乗客がいれば目につくところに席替えさせる。機内はカーテンで仕切り、カーテン
越しの移動は禁じる。等々変更があったが、また細かい指示が出たそうだ。あるユナ
イテッドの便では機内アナウンスが「同盟国の皆さん」という出だしで始まったそう
だが、これはマニュアル外で行き過ぎていた。(続く)