ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

本四連絡橋のルート選択1



【はじめに】
 愛媛県松山市出身の友人から「明石海峡大橋の通行料金が高いので何とかして
ほし い」という不満をうかがった。当方は道路公団関係者でも政治家でもない
ので本件の 根本的な解決はできないが、詳しくうかがうと当方のイメージより
も通行料金が高い ような気がした。また、走行時間も多いような気がした。

 彼は、愛知県三好町在住で、最寄りの東名高速道路東名三好IC(インター
チェン ジ)と松山自動車道松山ICとの間を帰省時に利用している。瀬戸大橋
が開通するま では鉄道や航空機を利用していたが、開通後は車も利用するよう
になった。ところ で、瀬戸大橋の開通は1988年4月10日で、このときは
まだ山陽自動車道が全通 していないので、瀬戸大橋開通直後から車にシフトし
たわけではない。

 神戸JCT (ジャンクション)から倉敷JCTまでの山陽自動車道が全通し
たのは1997年1 2月10日(最後の開通区間は、三木小野ICと山陽姫路
東ICの間)で、それ以降 に利用するようになったのである。ほかには適当な
ルートがないので、東名高速道路 (東名三好ICー小牧IC)、名神高速道路
(小牧ICー吹田JCT)、中国自動車 道(吹田JCTー神戸JCT)、山陽
自動車道(神戸JCTー倉敷JCTー早島I C)、瀬戸中央自動車道(早島
ICー坂出IC)、高松自動車道(坂出ICー坂出J CTー川之江JCT)、
松山自動車道(川之江JCTー松山IC)と7本の高速自動 車国道※を連続で乗
り継いでいた。

※高速自動車国道
本報告書では便宜上、瀬戸中央自動車道など本四公団(本州四国連絡橋公団)管
轄の 自動車道も高速自動車国道と見立てた記載になっている。正確には本四公
団管轄区間 は、一般国道自動車専用道路である。

 山陽自動車道が全通する以前、路線バスやルートトラックは中国自動車道の津
山I Cから早島ICまで一般国道53号および2号を利用していた。国道53
号は隘路や カーブの多い丘陵ルートで、さらに国道2号(岡山BP(バイパ
ス))の交通集中起 因の渋滞がネックになり、かなり不便である。そのため瀬
戸大橋の交通量はかなり少 なかった。鉄道の瀬戸大橋線の盛況とは対照的だっ
た。1993年3月31日に山陽 自動車道の岡山IC以西が開通し、国道2号
を回避できるようになったが、まだ関西 以東と四国が定常的に車を利用する機
運は高まらない。

 その年(1993年)の12月16日に山陽自動車道の備前ICと岡山ICの
間が 開通した。この開通により山陽姫路東IC以西が開通したことになった。
この開通に より中国自動車道の福崎ICから播但連絡道路を介して、山陽姫路
東ICから倉敷J CTを経て瀬戸大橋まで高速道路で連続走行できるように
なった。このころから車利 用が増え始めた。瀬戸大橋は開通から5年半でよう
やく有効利用の兆しが見えてきた。

 1997年3月15日に岡山自動車道が全通して、中国自動車道の北房JCT
から 岡山自動車道を経て高速自動車国道だけで連続走行できるようになった。
しかし、こ のルートは大回りなので、これまでのように播但連絡道路を経る
ルートが主流であ る。そして、その年(1997年)の12月10日に先述の
ように山陽自動車道が全 通した。(◆一覧1を参照。)

◆一覧1
本四ルート関連高速道路開通経緯、および関西と瀬戸大橋の区間のメインルート
の変 遷一覧。
 くだんの彼が四国への帰省に車を利用する気になったのは、山陽自動車道全通
以降 である。瀬戸大橋開通から9年半である。実は、これは本州側の高速道路
整備経緯だ けでなく、四国側の事情も大きい。松山自動車道が松山市に到達し
たのは1997年 2月26日で、瀬戸大橋開通当時は短区間の部分開通だけで
四国には高速道路はない に等しかったのだ。

 さて、山陽自動車道が全通して約1年を経た1998年4月5日に神戸淡路鳴
門自 動車道が全通した。世界一のスパンを誇る明石海峡大橋を含むルートで、
この開通と 同時に本州側(神戸側)の既存高速道路への接続区間も開通してい
る。つまり、瀬戸 大橋ルートと異なり開通当初から、阪神高速道路、山陽自動
車道、第二神明北線を経 て神戸以東だけでなく以西各地から高速道路で連続走
行できるようになっていた。渋 滞多発区間の阪神高速道路神戸線や第二神明道
路を回避できる複数ルートが同時開通 したラダーネットワークシステムである。
 このシステムは本州側の導入部が明確で、四国へのメインルートとして誘うよ
うで ある。関西以東から四国に向かう場合、中国自動車道(山陽自動車道)、
阪神高速道 路のいずれで西に向かっても、神戸市を通過するとき四国方面への
案内に出合う。こ れらを無視して倉敷まで中国地方をひた走るのは、ある種の
信念が必要かと思える。

  四国に向かうのだから、なるべく早く四国に入りたいという心理的な要因も
あるだろ う。また、明石海峡大橋に敬意を表するという考えもあるかもしれな
い。瀬戸大橋し かなかったころは、瀬戸大橋の巨大さに圧倒されたが、一度明
石海峡大橋の圧倒的な 大きさを目の当たりにすると瀬戸大橋を含むほかの長大
橋がかなり小さく感じるはず である。いずれにしても、これまで山陽自動車道
を経て瀬戸中央自動車道を利用して いた車のうち、相当な量が神戸淡路鳴門自
動車道ルートへシフトしているのではない だろうか。※

※瀬戸中央道の交通量
 5月の瀬戸大橋区間(与島PAと坂出北ICの間)の1日あたりの平均交通量
は、 1997年が17067台、1998年が17225台、1999年が
17404 台。1998年は神戸淡路鳴門自動車道全通直後で、1999年は
西瀬戸自動車道の 橋梁区間全通後である。交通量はいずれの開通にも影響して
いないように見えるが、 先述のように本四架橋区間に接続する高速道路の延長
供用により本四間の需要が増大 しているので、交通量が変わらないというのは
相対的には減少していると見なせると 考えている。本報告のテーマはあくまで
も本四間の高速ルートの分析なので、交通量 に関する追求はここで留める。

 明石海峡ルートが開通し、くだんの彼もこのルートを利用するようになった。
東名 高速道路(東名三好ICー小牧IC)、名神高速道路(小牧ICー西宮
JCT)、阪 神高速神戸線ー第二神明道路ー第二神明北線(西宮JCTー垂水
JCT)、神戸淡路 鳴門自動車道(垂水JCTー鳴門IC)、国道11号(鳴
門ICー徳島IC)、徳島 自動車道(徳島ICー川之江東JCT)、高知自動
車道(川之江東JCTー川之江J CT)、松山自動車道(川之江JCTー松山
IC)と高速自動車国道だけでなく、都 市高速道路や一般有料道路、一般国道
を含む複雑な乗り継ぎになった。このルートは 以前の瀬戸大橋ルートに比べて
近いイメージがあった。それなのに料金は高くなった ような気がする。

 近くなったら通行料金は安くなるはずなのに、きっと世界一の明石 海峡大橋
が割高なのだという論理で、冒頭の「明石海峡大橋の通行料金が高いので何 と
かしてほしい」という不満に至った。このルートは、途中に無料の一般国道や安
価 な(安価と感じる)阪神高速道路などが含まれているので、なおさら通行料
金が安く ならないのは納得できず、つい明石海峡大橋のせいにしてしまうので
ある。

 当方はこの不満をうかがったとき、瀬戸大橋ルートと明石海峡ルートの通行料
金の 差異が微妙であると察した。高速自動車国道の通行料金は連続走行距離が
長いほど割 安になるからである。瀬戸大橋ルートは途中に本四公団管轄区間を
含むが、本州側と 四国側の日本道路公団管轄区間の通行料金は合算して課金さ
れるので、割安になる距 離が長い。明石海峡ルートは鳴門ICで一般国道11
号に降りるので、本州側と四国 側の通行料金は別々に課金される。そのため割
安になる距離が短い。

 この料金システムを長距離逓減制と言う。日本道路公団管轄の高速自動車国道
は、 連続走行距離が200キロ以上の場合は、200キロを超えた距離は正規
料金の30 %割引、100キロを超えた距離は25%割引になる。300キロ
利用した場合は、 (100キロ+100キロ×0.75+100キロ×0.7)
で245キロ分の通行 料金になる。なお、通行料金は距離に単位料金を乗じて
計算される。

 たとえば、40 0キロ利用するとき、200キロ先で一旦高速道路を降り
て、再度入りなおして残り の200キロを走行した場合、連続走行ならば
(100キロ+100キロ×0.75 +200キロ×0.7)で315キロ分の
通行料金になる。200キロずつ2回に分 けると((100キロ+100キロ×
0.75)×2)で350キロ分の通行料金に なる。

 また、通行料金には基本料金としてターミナルチャージが課金されるので、2
回に分けると1回余計になる。この差異を具体的な金額で記すと、(ターミナル
チ ャージ150円+35キロ(=350キロー315キロ)×単位料金24.6
円※) で約1000円である。

※単位料金
 普通車の普通区間を想定している。
通行料金の計算方法に詳細については、
2003.7.24 伊勢湾岸2
に記載している。

 当方はすべての高速道路に関するデータを暗記しているわけではないので、口
頭で 質問された場合は感覚で回答している。今回のルート比較の瀬戸大橋ルー
トと明石海 峡ルートの差異は、まさにこの「高速道路の連続走行」による割安
分が影響してく る。距離もほぼ例で記したものに近い。つまり、瀬戸大橋ルー
トの方が明石海峡ルー トよりも35キロ長い程度ならば料金は変わらないので
ある。

 ところで、明石海峡 ルートは本四公団管轄区間が瀬戸大橋区間に比べて長
い。この区間が長ければ料金も 高くなる。確かに明石海峡ルートの方が総距離
は短い。しかし、複雑な料金計算シス テムにより瀬戸大橋ルートの方が安い気
がする。松山出身の友人に質問されたとき は、「後で確認するが、おそらく瀬
戸大橋ルートの方が安い」と回答しておいた。ま た、明石海峡大橋が特別高い
料金を徴収しているものではないことも話した。明石海 峡ルートの通行料金が
高いのは、あくまでも日本道路公団管轄の高速自動車国道にお ける長距離逓減
制に起因する。

 さらに、近くなったにもかかわらずあまり所要時間が変わらない気がするとも
話し ていた。これは、途中に一般国道や阪神高速道路の渋滞多発区間を含ませ
たせいだと 理解しているようだ。しかも、彼が利用するのは帰省なので全体の
交通量は多く、愛 知県から兵庫県までの本州側はおおむね渋滞気味でスムース
には走行することができ ない。時間に関しては追求を放棄しているのだ。しか
し、当方には気になる。通行料 金だけでなく、所要時間の差異も微妙なのでは
ないだろうか。

 本報告では、各ルートの通行料金、所要時間、走行距離について比較検討して
いる。

 結論から先に記すと、くだんの彼には「これまで通りの瀬戸大橋ルートの方が
お得 である」と後日回答した。このルートの通行料金が最も安く、所要時間が
最も少な く、走行距離が最も短いというわけではない。すべて着眼点で最良を
示したルートは ないのだ。どの着眼点でも割と良いルートを妥協点としたので
ある。もちろん、彼に も納得していただいた。彼は道路に特別な関心にある人
ではないので、これ以上の深 い説明は不要である。

 ところで、このルート比較は関西だけでなく東海以東と四国とのメインルート
を判 断することに利用できそうである。また、四国のどこに向かうかによって
メインルー トがどれになるのか気になった。徳島県については比較するまでも
なく明石海峡ルー トが有効だろう。しかし、愛媛県や高知県だけでなく香川県
も微妙である。

 くだんの彼は、東名三好ICを基点としていたが、本報告書ではわかりやすい
よう に東名高速道路の名古屋ICを基点とした。また、四国各地の基点は、高
知県は高知 自動車道の高知IC、愛媛県は松山自動車道の松山IC、香川県は
高松自動車道の高 松中央ICとした。つまり、名古屋ICと高知IC、松山
IC、高松中央ICの区間 のルート比較である。

続く