ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃なんとなく感想文

道路の本が、一般書籍化してゆく時代

「首都高をゆく」「高速道路無料化 新しい日本のつくり方」「高速道路の謎〜雑学から知る日本の道路事情〜」


「首都高をゆく」Office Ti イカロス出版

 2010年3月、首都高速の大橋ジャンクションが開通した。アクアライン以降、久々にたかが道路がマスコミに着目された。道路は当たり前の存在なので、 着目する方がおかしいのだが、着目してみるとそれなりにおもしろい。この本では、首都高速の建設経緯と今後の建設予定を簡単にまとめている。

鉄道については、マニアの範囲が広いので、さまざまなかたちで情報が展開されている。資料から文学まで、何でも揃っている。しかし、道路は充実していな い。官公庁が発行する資料と、建設関連の理工系図書、それに学会の研究論文くらいである。一般的には市販の地図でルートを知るくらいである。この本は、首 都高速という、ある意味東京で最も目立つ存在の概要を知るにはちょうどよい

実は、当方は道路事情にはとても詳しい。首都高速は特に詳しい。この本を読まなくてもたいてい知っている。少なくともこの本で得た新たな情報は何もなかっ た。それでも、こうした本は少ないのでどうしても手にとってしまう。自分の趣向の客観的な位置を知るにはちょうどよいのだ。当方は決して道路に関心がある ことが一般的とは思っていない。めずらしい趣向だと思っている。そのためなるべく全面には出さずに秘めるように心がけている。知らないふりをするのではな く、一般の人が知らないことを間違っているとは思わないようにしているのだ。

この本では、写真や図版、地図を多くして、道路に関心のない人でも理解できるよう配慮されている。それでも、東京の地理に疎いときついと感じた。また、道 路建設には時間がかかるので、経緯は、若い人には実感が湧かないだろう。このあたりの印象がポピュラーではないものを表現するときの参考になる。

ところで、この本の終わりの方には不要な記事が載せされている。有名人のインタビューと旅行プランである。やはり、道路だけでは売れないと心配になったのだろうか。利潤を追求する出版社の編集者としては仕方のない判断である。

「高速道路無料化 新しい日本のつくり方」山崎養世 朝日文庫

 作者は道路の専門家ではなく、経済の専門家である。道路はどうでもよく、道路にまつわる経済状況だけに着目している。読者も経済しか関心はないだろう。

 実は、当方は道路事情にはとても詳しい。通行料金についても一般の人よりは多くの知識を持っているだろう。全部暗記しているわけではなく、距離と料金の 関係を知っているので、必要に応じて計算すればおおむね料金がわかるのだ。ETC割引で通勤時間帯は100キロまで半額という制度が執行されたとき、多く の人はどこまでが100キロなのかわからくて困惑したようだが、当方は距離がわかっているので、全国どの区間を走行しても対応することができた。しかし、 こんなことができる人は多くないとも思っていた。いずれもっと安直なかたちに収まるだろう。そして、無料化案である。大衆を相手にすれば、この帰結は当然 である。

 しかし、できることとできないことがあると思う。道路先進国では高速道路は無料と決めつけているが、そうでもない。財政に余裕がなくなれば有料化をすす めているのだ。アメリカの高速道路では、新規開通区間は有料が多いし、ドイツのアウトバーンも部分的に有料化されている。日本の場合は、なぜ急に無料化に 向かうのかよくわからない。民営化して、しばらく様子を見るかと思ったが、国が民間会社を指示している。無料化されればユーザにとって得るものは多いよう に思えるが、これはユーザ以外の国民も費用を負担することになるのだ。容認する方がおかしい気がする。消費税は、贅沢品、生活必需品の区別なく公平な税率 を課した。不公平が公平だった時代から、公平が不公平の時代に変わる悪法だが、強制執行されて、その後特に目立った反抗はない。道路も同じことになるのだ ろうか。子どものいない家庭からも学校作りのために税を徴収しているが、これは納得できるだろう。子どもは家族でなくても、将来自分に有益をもたらす可能 性があるし、子どもは国がめんどうをみるべきだろう。しかし、道路はそうでもないと思う。一般道路ならばわからないでも ないが、高速道路は違う。観光道路はなおさらである。

 どのようなかたち決着するか不明だが、大都市近郊区間や、大都市間を結ぶ幹線は有料のままになる可能性が高い。これらの区間は車を持たないユーザ以外に も円滑な流通というかたちで恩恵はあるだろう。ユーザ以外への負担も説得しやすい。しかし、それ以外の無料になる可能性の高い観光目的の閑散区間への負担 はどうやって説得するのだろうか。バスやタクシーで行くかもしれないので、負担してほしいと言うのだろうか。

「高速道路の謎〜雑学から知る日本の道路事情〜」清水草一 扶桑社新書

 作者は道路というよりも車マニアなのだが、首都高速には詳しい。初期のころは、首都高速の改造案を記していた。鉄道マニアが、勝手に鉄道路線を想定するやり方と似ているが、作者のそれは緻密で、事情通にはおもしろく、画期的なアイデアと感じただろう。
(「首都高はなぜ渋滞するのか」三椎社)

 しかし、これ以降の本は水準が低くなっている。首都高速以外にも詳しく、アイデアもあることを記した本では、手を広げすぎたせいか、地域によっては精度 が落ちている。実走したのは認めるが、やはり調査が甘いところがある。それでも、アイデアはまあ的確なものだったと思う。
(「この高速はいらない。」講談社)

 そして、この本である。本人が記したとは思えないほど、水準が落ちている。どうしたのだろうか。鉄道のように読者層が広い分野ならば、軽い雑学本があっ てもよいだろう。道路の場合は、あまり安易な作りの本はきついと思う。読者層が広がるまでは、大衆に迎合することなく、独自の路線を貫いてほしいものだ。