ヒマヒマなんとなく感想文|

「こだわり地名クイズ」


(森川 晃 2006.5)

「こだわり地名クイズ」楠原佑介 徳間文庫

 この手の蘊蓄本にはダメなものが多い。古い原稿を集めてきて、特に検証もせずに脱稿する。編集者も字数を合わせるだけでそのまま通してしまう。当方がダ メ本の基準にしているのは作者名が個人名ではなく、公認されていない適当な団体名でクレジットされているかどうかである。その団体は、いかにも依頼された 事務処理のように、あちこちから資料を集める人たちなのである。作家群ならまだましだが、団体の長に大学教授という冠があれば、研究室の学生にタダ働きさ せていると思われる。例外もあるかもしれないが、この手の本を避けるのは、これまで多数の本を読んできた経験による時間を無駄にしないための「防御」の一 つである。さらに「クイズ」というかたちになっているのが問題である。当方は何かを知る姿勢になっているときに焦らされることには耐えられない。本の場合 は、ページを繰れば答えを知ることができるケースが多いが、編集によっては巻末に答えを集めたりしてとても読みにくい。でも本はテレビ番組よりはましかも しれない。テレビ番組に多いのが、答えや結末をすぐに教えずにCMを跨いだりする。ひどいものはCMを2つ跨い だり、さらにひどいものは次週に引き延ばす。かつては腹を立てながら見てきたが、「さあ、どうなるでしょう。答えはCMの後で」というMCの煽りを聞いた 瞬間にチャンネルを変える。そして、その番組は二度と見ない。見なくても困るとも思えないし、困ったこともない。煽られて知った結末ほどくだらないものが 多いのは事実である。このようにチャンネルを変えることを繰り返しているうちに、煽る演出の多いテレビ局のチャンネルそのものを選択しなくなった。

ところで、(2006年)6月から7月にかけてのワールドカップは絶対にリアルタイムで見なければならない重要な放送である。つくりものばかりのテレビ番 組で信頼できるのはスポーツだけである。ワールドカップはスポーツの中でも最高に緊張感のあるゲームなのだ。それで、かなりひさびさにお台場のチャンネル を選択した。もちろん、ゲームの時間のみである。前後の時間はテレビを消して、時計を見つつ、本を読んでいた。

さて、この本は作者名が個人名で、何とか最初のフルイは通り抜けたが、タイトルがいかにもダメ本である。当方は本を入手するときはあまり吟味しない。篭の ある書店ならば篭に次々に放りこむ。手持ちのときは少なくとも片手で持てなくなるくらいはまとめて入手する。レジで「同じ本が2冊ありますが、よろしいで すか」と注意されることもしばしば。昼に入手した本を夕方再度書店に訪れたときにまた入手したこともある。もちろん、予習をしているので入手を決めている 新刊本はある。それにいずれは入手しようと考えている既刊本の待ち行列は150冊くらいある。それでも、書店ではたいてい衝動買いをする。実は、それが楽 しみなのだが。この本は、ダメ本なら「トイレ本※」でもいいやという投げやりな衝動買いだった。

 このように全く期待していなかった本なのだが、読んでみるとなかなか良い。よく調べているし、資料を集めてきただけという手抜き感はない。蘊蓄本なので すべてを自身の踏査でまかなうのは難しいが、集めた資料も確かな目で分析している。タイトルを軽いものにしたのは皮肉かと思った。もっと堅い「日本地理大 全」のようなものでも耐えられそうだ。それにクイズにする意味もよくわからない。これも皮肉なのだろうか。いずれにしてもうれしい誤算だった。これで、本 を入手すべき作者が一人増えた。しかし、なぜこのような誤解を受けるタイトルにしたのだろう。誰をターゲットにしたのかわからないが、少なくとも本に慣れ た人はタイトルで敬遠するケースが多い気がする。本に慣れていない人に入手させてベストセラーにしても、それは一刹那のことである。やはり、継続して本を 入手する習慣のある人をターゲットにした方が最終的には得が多いと思う。


※「トイレ本」
 入手する本は読む状況により、いくつかの種類に分けている。トイレ本というのは文字通り、トイレで読むに相応しい本である。汚い本ではなく、数分で区切 りになるセンテンスを読み終える本である。ほかには「通勤本」「机上本」「寝床本」などがあり、常時数冊の本が、オン・リーディングの状態になっている。