ヒマヒマなんとなく感想文| 東日本大震災

闘う市長・南相馬市長桜井勝延




「闘う市長」(徳間書店)

ざっくばらんに本音で喋ってくれる南相馬市長だということが伝わってくる。
東長崎機関とビストロ・アズィーザ隊も、夕食をつつきながら喋った仲ではあるが、それが特別なことではないようだ。
 そして2011年9月11日には、市長も登壇するトークイベントを開催した。すると、そこには、市長のやり方を嫌う人たちも熱心に聞きにきていた。
 反市長側の人の意見に「市長の活動は南相馬市内よりも、官邸など、南相馬の 外へ向いているので、このようにトークライブを聴く機会は少ないし、意見交換 などなかなかできない」というものがあった。


2011年9月11日には、市長トークイベ ント映像

 なるほど、この本の著者も、我々も外の人間だから喋れる機会が多いように感 じるのかも。市長は、我々と、六角食堂で 喋ったとき「官邸には社交しに行っ てるんではない。予算を取り付けに行ってる んだ。南相馬の現地をまわることも大事だが、予算を取りに官邸へ行くのは市長 が行かなきゃ意味がないから、 立場によって役割がある」と。

 この本でも、中央政府とのやり取りの内容がかなり多めで、南相馬市内での活 動については、震災直後以外の時期ではかなり記述が少ない。桜井市長は、タイム誌で 「影響力のある100人」に取り上げられるなど、有名人化している。 そのこと と相まって、現場市民たちからは「市長は我々市民のほうをあまり向 いてくれてない」という感想が出ている。確かに、日本国内での地方公演も多 く、地元よりも外を向いている感じは強い。

 で、こうした外交の成果あってか、南相馬市が貰えた義援金は、他の自治体に 比べ 非常に多いと本書にも書かれている。たくさんの金を貰ったのなら、次に 要求されるのは「他より立派な政治しろよ」ということになるかもしれない。 常にプレッシャーだ。

 「世界の中で、歴史の中で、自分にしか向き合わせてもらえないこと」。首長としてこの事態に向き合えることを「ある種のワクワク感がある」と、本書の中 でもいう桜井市長の幸福感は、戦場屋カトケンにもよくわかる。しかし、このような 人生観は、世界のほとんどの人にはあてはまらないことも、戦場で学ん だ。桜井市長も、それを感じさせられている場面が多いようだ。

 さて、カトケンがこの本で最も入念に読みたくなった箇所は、意外にも、酪農業のところだった。やはり、現場型スペシャリストの話は、政治家の話よりおも しろい。(加藤健二郎)


続く