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英米有力メディアが見た"日本の大手メディアの北朝鮮報道 3

(報告:常岡千恵子)


 そして、この記事に遅れること数週間、ようやく日本の全国紙が『ネ
イチャー』報道を検証した。

[2005年5月10日付『朝日新聞』朝刊 33面]
  天下の朝日といえども、吉井氏への取材は不可能だったようだ。
  鑑定結果の公開を求めているものの、前出の英米メディアより、心な
しか遠慮がち?

  また、『ネイチャー』の記事は、骨はスポンジのように汚染を吸い取
り、染み込んでしまえば除去できないと指摘しているのに、警察庁警備
局長が、骨表面の汚染物質について語っているのも、ちょっとチグハグ。

  そして、朝日の記事の数週間後、またまた米紙がこの問題を取り上げ
た。

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『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(米)
                                          2005年6月2日付
     −拉致被害者に関するDNA鑑定と疑惑
  北朝鮮が1998年にミサイルを打ち上げて以来、日本の再軍備化を
欲する日本の政治家たちにとって、北朝鮮は重宝な存在となった。

  北朝鮮の脅威なくして、日本の政治家たちは、自衛隊のイラク派遣や
米国のミサイル防衛参加を果たせなかったし、世論も平和憲法の改正を
支持しなかっただろう。

  テレビのニュース番組では、キム・ジョンイルの映像が登場すると、
暗く邪悪な雰囲気の音楽が流され、あたかもダース・ベイダーの登場シ
ーンのようだ。

  だが何よりも、政府とメディアによる拉致被害者への猛烈な注目が、
国民の怒りと愛国的感情を掻き立てている。
  政府の対北朝鮮政策に疑問を投げかけることすら、タブーになった。

  昨年11月、北朝鮮が、自殺したと主張する拉致被害者、横田めぐみ氏
の遺骨が日本に返され、DNA鑑定が行われた。

  警察はDNAを検出できなかったが、帝京大学の吉井富夫氏は、DNA
の検出に成功したと述べた。

  12月、政府は、遺骨は横田めぐみ氏とは別の二人のものだ、と発表。

  政治家たちは、早速北朝鮮を非難し、経済制裁を求めた。
  政治家たちも新聞の社説も、北朝鮮は日本を馬鹿にしている、と述べた。

  横田めぐみ氏の両親も記者会見で怒りを表明し、世論調査では、北朝
鮮への厳しい制裁を支持する人が増えた。

  だが、件のDNA鑑定は、政府が主張するような内容だったのか?

  2月に、英科学誌『ネイチャー』の報道によって疑惑が浮上した。
  吉井氏は、同誌に、鑑定結果は確定的なものではなく、汚染の可能性
もあると語った。

  彼は次の取材を受ける前に、警視庁に出向した。
  警察によれば、吉井氏は法的に取材に応じられない立場にある。

  警察もインタビューを断ったが、質問に対しての書面回答に合意した。
警察からの2枚の回答書には、吉井氏は5つのサンプルのうち4つか
ら、別人のDNAを検出し、もう1つから前者とは別人のDNAを検出
した。
 警察は、汚染を避ける努力を行った、ともつけ加えている。
 吉井氏に関しては、彼は『ネイチャー』に一般論を述べただけで、こ
のケースについて語ったわけではない、と答えた。

 警察は、遺骨は横田めぐみ氏のものではないとも、北朝鮮が意図的に
別人の遺骨を提供したとも、明言していない。
 法医学の専門家たちは、政府が主張するような結論は得られないと語
る。

 筑波大学の法医学の本田克也教授は、「結果だけからいえば、与えら
れた資料からは2種類しか出なかった。それは、めぐみさんのものでは
なかった。そこまでです。めぐみさんのではないと言うまでには、まだ
まだステップがあります」と語る。

 関西医科大学の赤根敦教授は、埋葬された骨は、他人の肌や唾で汚染
されやすいと述べた。
 彼は、政府の発表について、「専門家でない人は、他人のDNAが検
出されたと聞けば、遺骨は彼女のものではないと結論づけるかもしれま
せん。慎重に表現されればよかったと思います」と語る。

 吉井氏と十年以上一緒に働いた、帝京大の石山いくお名誉教授は、「遺
骨の鑑定で、めぐみさんのDNAが検出されなかったとしか言えない」
と述べた。
 彼は、政府は鑑定結果以外の要因も加味して、発表を行ったようにみ
えるという。
 「公安の情報もあるし、離婚しているようなことも、彼が提出したデ
ータとあわせて、他人のものだと判断したのです」と語った。

 一方、政府は沈黙を守り、北朝鮮への遺骨の返還も拒んでいる。
 遺骨の再鑑定を、中立国で行ったり、米国や中国の研究者チームに任
せたらどうか、という専門家の声もある。

 反北朝鮮の日本の大手メディアは、この疑惑を新聞の一面に掲載する
こともなく、朝日新聞が大人しい記事を載せ、テレビ朝日が報じ、いく
つかの週刊誌が取り上げたほかは、無視した。

。。。。。。。。。。。。。

 国会で質問された案件にもかかわらず、ほとんど沈黙を保つ日本の大
手メディアは、まさに日本政府の鏡である。

 産経新聞ならびにタカ派政治家諸君、いつもの威勢は何処へ行った?
 こういう時こそ、正々堂々と論理的に反駁できなければ、国連安保理
常任理事国など、務まるはずがないではないか!!

 常任理事国となって国際舞台に踊り出れば、もっと激しい海外メディ
アの追及に晒されることになるのだ。
 国際社会で力を持つ欧米では、"私は貝になりたい"は、大任を負わ
ぬ者だけに許される特権である。

 日本には、"黙殺"の"伝統"があるが、これを外国に対して実行し、
大失敗したのが、60年前。
 国際政治の晴れ舞台に上るつもりならば、"日本の伝統文化"をある
程度曲げて説明責任を果たさなければ、サバイバルは難しい。

 なのに最近、"海外進出"したい人ほど、"日本の伝統文化"に頑迷に
固執しているようなフシがあり、なかなか理解に苦しむんですけどぉ。
 
 さて、次は、過熱する日本の反北朝鮮ムードを、さらに大きく捉えた
米紙の報道をお楽しみいただきたい。

続く