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海外メディアの"靖国神社"報道 1

(報告:常岡千恵子)


  敗戦60周年の2005年になって、ますますヒートアップする小泉首
相の靖国神社参拝問題。
  日本の大手メディアは、この問題を、急速に高まる中国と韓国の反日感
情と絡めて、あくまで日本とアジアの近隣諸国との問題として扱っている。

 ところがどっこい、首相の靖国神社参拝を批判しているのは、何も中国
と韓国だけではない。
  日本のメディアはほとんど伝えないが、実は、欧米メディアの大半が、
首相の靖国神社参拝を、日本の軍国主義復活の兆しと捉え、猛批判を行っ
ているのだ。

  とくに最近、日本でメジャーになった、故東條英機・元首相の孫、東條
由布子氏は、海外メディアでも引っ張りだこの人気者。
  もっとも、その扱いは、国内メディアのそれとは、ちょっと違うようだ
けど。

  というわけで、まずは英国の有力紙の、東條由布子氏とのランチの一時
を綴った記事から、その要旨をご紹介しよう。

。。。。。。。。。。。。。

『フィナンシャル・タイムズ』(英)  2005年2月19日付
     −眠れる神を起こすな:一部の日本の政治家は、処刑された戦時の
首相・東條英機の孫、東條由布子に祖父の分祀を望んでいる。
 だが彼女は、祖父は神格に値する、と力説する。
 東條英機が率いた陸軍が戦場で滅び、もしくは荒廃した祖国に逃げ帰っ
てから60年近く後も、彼の亡霊はアジアに忍び寄っている。
 
 小泉純一郎が4年前に首相に就任して以来、彼は毎年靖国神社を参拝し、
中国を激怒させている。

 靖国神社は、日中関係悪化の危険な発火点となった。
 中曽根康弘・元首相をはじめとする一部の日本の政治家は、緊張の緩和
を望み、靖国神社に合祀されているA級戦犯の遺族に分祀をはたらきかけ
た。

 祖父の名声を果敢に擁護する65歳の東條由布子氏は、祖父が残した遺
産を語る場として、皇居を見下ろすフランス・レストラン、"クラウン"
を選んだ。
 小柄で姿勢の正しい彼女は、金色で装飾された大きなボタンのついた、
グリーンのウールのスーツを纏い、新幹線なみの時間厳守で、つや消しブ
ルーの小さなトランクを携えて現れた。
 堅苦しく、昔風の礼儀正しさを備えた彼女は、アガサ・クリスティの小
説に登場する探偵、ミス・マープルを彷彿とさせる。

 彼女は席に着いたとたん、持参した小さなトランクを開けて、祖父の遺
品を取り出した。
 祖父がヨーロッパから彼女の父宛に送った161枚の葉書の次には、粒
子の粗い数々の写真、祖父の育児日記など。

 祖父を覚えているかを尋ねたところ、彼女は優しくまなじりに皴を寄せ
ながら、「少しだけ」と答えた。「終戦の時、私は6歳でした」。

 日本が降伏したのち、東條は収監された。

 彼女の回想をもとにして、『プライド』という映画が製作され、ヒット
した。
 この作品は、東條を、不当な裁判で処刑された愛国者として描いている。
「あれは公正な裁判ではありませんでした。勝者が敗者を裁いたのです。
東條英機を悪者にすることは、あの戦争が悪かったということで、戦った
兵士全員が悪かったことになります」。
 彼女は、口をすぼめてインゲンマメ・スープをすすりながら、語った。

 私が、「彼らの死が無駄だったということが、重要なのではないですか」
と尋ねると、
 「尊い命が失われ、日本が敗れたのは事実です。しかし、彼らは死に物
狂いで戦い、立派でした」。
彼女の顔から、かすかに笑みが失せる。
「結果として、日本は平和と豊かな生活を享受しています。彼らが無駄死
にしたとするのは、悲しいことです」。

 思い切って、ヨーロッパの大国から学んだ日本の侵略的拡張主義が、一
体どうやって日本に平和をもたらしたことになるのかを、尋ねてみた。
彼女はしばし沈黙したのち、「あなたは、日本は侵略者だったという見
方をしています。あれは自衛戦争でした。日本には資源がなかったのです」
と述べた。

 南京大虐殺についても彼女は中国の捏造だと論駁し、私が、資源不足だ
から、よそから資源を奪ってもいいことにはならないとほのめかしても、
「もっと、深く理解していただきたいです。あなたの記事に、私たちの見
解はとても違っていると明記してください」と答えた。

 彼女は靖国問題についても、「中国は、この国内問題に関係ありません」
と、中国への不快感を露にした。
 「米国や英国は、文句を言っていません。中国だけが、死者の魂を鞭打
っているのです」。

 プチフールが運ばれてくると、彼女はトランクの中を探り、魔術師のよ
うに、驚くべきアイテムを引き出す。
 東條が処刑を待ちながら作った、茶色の箱。彼が最後の思いを綴った時
に使用した、鉛筆の使い残し。そして、彼の最後の一服のタバコの吸殻ま
でも。

 そして、白いテーブルクロスの上に小さな包みを置き、中から彼女の祖
父の遺髪と爪を出してみせた。
 これらは、彼が自殺を試みる前に、家族のために残したものだった。

 彼女は、「祖父は、弁護士に、自殺に失敗して恥の中に生きていると語
りました。祖父は、天皇の処刑を避けるためだけに、生きていたのです」
と語り、多くの歴史家が異議を唱えている東條の証言、すなわち、天皇は
日本の悲惨な戦争努力の詳細には携わっていなかったという説に言及し
た。

 私は、皇居を振り返りながら、天皇が処刑されたほうが、日本はもっと
過去と潔く決別していたかもしれない、という議論もあると言った。
 靖国に合祀された東條が神道の神となり、天皇ヒロヒトが米国から免責
されて神格を放棄したのは、皮肉なことに思える。

 彼女は、「天皇は平和を望み、戦争を避けたかったのです」と、彼女の
祖父が墓まで持っていった証言を繰り返した。

 東條の遺品のすべては、無事に入れ物の中に戻ったが、彼の声は、彼女
を通じて、いまだに宙に響いている。

。。。。。。。。。。。。。

 英国では、日本軍による捕虜の非人道的な扱いから、日本の戦争責任に
対してかなり厳しい見方をする人が多い。

 昭和天皇が病床に伏した時、英国の大衆紙が天皇の戦争責任を追及する
記事を相次いで掲載し、「地獄が血まみれの天皇を待っている」という見
出しまで躍ったほどだ。

続く