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小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 12

(報告:常岡千恵子)


 2005年12月の東アジアサミット後も、海外英文メディア(中国と
韓国を除く)の日中関係報道は、衰えることがなかった。

 まずは、小泉首相がWTO向けに寄稿した英経済紙に、米シンクタン
クの研究員2人が寄稿した論評の要旨を皮切りに、英紙報道の要約をお
楽しみいただきたい。

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『フィナンシャル・タイムズ』(英)    2005年12月21日付
      −中日の論理の悪循環
                           ダニエル・コーエン & ミンシン・ペイ筆


 歴史や境界や海洋資源をめぐる激しい論争が引き金となった、最近の中
日間の敵意の復活は、中国が自ら掲げる"平和的台頭"を逸脱させるばか
りでなく、東アジアの経済的統合の健全なモーメンタムを混乱させる可能
性がある。

 中日の関係悪化は、中国政府と日本政府がともにその責めを負うべきこ
とは、明白である。
 日本の小泉首相の度重なる靖国神社参拝は、無分別で挑発的だ。
 中国政府が、今年4月の反日デモを抑えられなかったことと、習慣的に
日本の戦争犯罪を利用することも、二国間の絆を毒してきた。

 だが、それよりも不穏な中日関係の展開は、両国の一般国民が急速に敵
対意識を募らせていることにある。

 中国国民の日本に対する反感は、最近の関係悪化以前から強かった。
 
 だが、もっと問題なのは、両国民の大半が、将来の関係に悲観的なこと
だ。

 さらに悪いことには、今年8月の中国の世論調査で、93%が日本がそ
の大部分もしくはすべての責めを負うべきだと答えた。
 日本国民は、もっと公平で、8月の世論調査では、約半分が、この緊張
関係の責任はどちらか一国だけにあるわけではない、と答えた。

 この国民的敵対意識は、日本と中国の指導者の政策や姿勢によって、か
なり煽られてきた。

 中国政府が中国共産党の国家的威信を強化する目的で展開している"愛
国教育キャンペーン"は、一貫して日本を悪役にはめこんでいる。
 たとえば、今年、第二次世界大戦を記念するために、中国では日本の戦
時中の侵略をテーマとしたテレビ・シリーズが30以上も製作された。
 このような過去への執着は、日本の歪んだイメージを作るだけである。

 日本政府は、このような粗雑なプロパガンダは行っていないものの、小
泉首相は、靖国神社問題で中国政府と対立してみせ、日本の一般国民の反
中感情を利用してきた。
 小泉氏は、靖国神社参拝を日本の国家主権と威厳のシンボルとすること
で、政治的利益を膨らませただけでなく、参拝に対する中国の正当な懸念
を認めることを不可能にしてしまった。

 すべては、悪循環によってつくりだされた。
 両政府が遂行した近視眼的政策が、国民の敵意を煽り、それによって指
導者たちがさらに独善的な姿勢を取り、両国で怒りと絶望がさらに煽られ
る。
  この悪循環を止めるために、中国政府と日本政府は、身構えを解かなけ
ればならない。
  関係改善の努力は、双方が同時に歩み寄ることでしか、成功しない。
 
  まず最初に、日本政府は、中国と韓国を人種差別的に描いた『中国入門』
と『嫌韓流』の2冊の漫画を非難するべきだ。
  中国政府は、1930年代の日本の中国侵略を描いた映画の上映・放送
を中止するべきだ。

  たとえ両国政府が現在の時点で、靖国神社参拝そのものをどうすること
もできなくても、こうした小さな歩み寄りによって、彼らが自らの論理の
虜でないことを示せるだろう。

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『ザ・タイムズ』(英)                  2005年12月23日付
          −軍隊の秘密主義が日本を警戒させる
		  


  昨日、日本の新任の外相が、中国の軍事費拡大をめぐる秘密主義を非難
し、日本政府と中国政府の関係が悪化した。

  麻生太郎氏が記者会見で、中国の軍事費拡大について懸念を表明したが、
これに対し中国の外務省報道官が「非常に無責任」と非難した。

  強いナショナリスト的見解を持つ麻生氏は、中国が大きな脅威になりつ
つあり、中国政府の透明性の欠如が不安を煽る、と述べた。
  政治アナリストたちは、彼の発言は、これまでずっと中国を軍事的脅威
と公言することを控えてきた日本の公式見解からの、重大な転換だと言う。

  中国政府は、怒りで応酬した。

  この口論は、中国政府が、平和的発展を選択したことを強調する白書を
発行した時期と重なった。

  また、昨日、中国政府が、今年7月に台湾有事の際に中国が軍事力を行
使することもありえると発言した将軍を、処罰したことも明らかになった。

  中国は、急速な経済発展が近隣諸国に不安を与えていることを自覚し、
2年以上も"平和的台頭"を強調する宣伝を行ってきた。

  だが、日本との関係は、最近数ヶ月の間に、着実に悪化してきた。
  中国は、小泉首相の靖国神社参拝に、激怒したままだ。

  日本政府は、今年、中国の主要都市を襲った反日暴動に対して怒りを覚
えたままだ。
  中国の軍備増強は、長年日本政府を懸念させてきたが、今は中国の急速
な経済成長のせいで、より顕著な政治的課題となった。

  中国の歳出をめぐる秘密主義が、この問題を悪化させている。
  麻生氏のナショナリスト的スタンスは、保守の自民党の右翼に位置する。
  政界では、3ヶ月前の就任以来、彼が対中問題において直ちに自分の見
解を発表するだろうと予想されていた。

  日本政府は、いつの日か中国が、必要とあらば軍事力を行使して台湾を
奪回するという、この地域の懸念を共有し、また、今はその可能性は薄ら
いだものの、EUの対中武器輸出解禁の動きにも警戒感を募らせた。

  昨日の事件は、月曜日に北京で行われる、国連改革についての日中間の
対話に暗い影を落とすかもしれない。

  日本は、10年来の安保理常任理事国入りの努力をステップアップした
が、中国を含むアジアの近隣諸国の反対に遭った。

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  尚、上の英高級紙『ザ・タイムズ』の記事は、同日、カナダの『オタワ・
シチズン』にも転載された。

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『ザ・ガーディアン』(英)                2005年12月23日付
          −景気づく中国が平和と善意を約束する:
               政策文書が、みんなにより大きな市場を約束するが、
                 日本は警戒し、軍備増強に脅威を見る
				 


  昨日、中国政府は、その経済拡大と軍事力に対して外国が抱く不安を和
らげようと、平和な未来へのブループリントを発表した。

  官僚的な魅惑攻勢というもいうべき、この32ページの政策文書は、す
べての国々が怖れも脅威もなく、より大きな市場を手にする"調和的世界"
を目指す、と誓った。
  だが、この白書が出版されてすぐに、日本の外相が外交マナーを放棄し、
中国政府の軍備増強と秘密主義的傾向を"相当な脅威"と表現した。

  このアジアの二大大国の争いは、この地域での力のバランスの変化を示
す、最新のサインである。

  中国政府は、だんだんと批判的な詮索に晒されるようになった。
  テキスタイルと製造業製品の大量輸出が、米国、ヨーロッパ、ブラジル、
メキシコとの間に貿易摩擦を起こした。
  米国防総省は、中国の軍事力近代化と、戦略地政学的野心への懸念を表
明した。
  中国が台湾の独立宣言を阻止するために、非平和的手段も辞さない法律
を作ると、ヨーロッパは、武器輸出解禁を延期した。
  そして、国際的な人権団体が、ジャーナリストや反体制派の逮捕の急増
を糾弾した。

  件の白書は、急激な上昇が2億2千万人の中国人を貧困から救い出し、
世界経済成長に13%も貢献した、と強調する。
  また、中国は130の政府間組織に加盟し、267の他国間条約を締結
し、"調和的世界"を建設へのコミットメントを実証した、と述べた。

  あたかもこれを証明するかのように、昨日、台湾有事で米国が介入した
ら核兵器の使用もあると公言した中国の将軍が、軽い処罰を受けたとのニ
ュースが流れた。

  だが、日本の麻生太郎外相は、中国の善意を信じるどころではないと語
った。
  右翼の麻生氏のコメントは、第二次世界対戦時における日本の中国支配
や、東シナ海の天然ガスをめぐる争いで損なわれた二国間関係を改善する
のに、何の役にも立たないであろう。

  この二国間の敵対感情の大半は、小泉首相の再三に渡る靖国神社参拝に
よって発生した。靖国神社には、250万人の戦没者とともにA級戦犯
が祭られている。

  昨日、日本政府は、靖国神社に代わる無宗教施設の建設のための来年度
予算の計上を拒否し、抵抗した。
  新たな無宗教施設の建設を支持する人々は、その動きが中国との緊張緩
和を助けるだろうと考えている。

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  以上ご紹介した英紙3紙は、英国の中道・右・左を代表する高級紙であ
ることを、補足しておきたい。

  そして、大西洋を越えても、小泉首相の靖国神社参拝をめぐる報道は、
年末まで御盛況であった。
  まずは、小泉首相を2005年のアジアの"時の人"に選んだ、米大手
週刊誌の報道の要約を、ご覧いただきたい。

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『タイム』(米)                         2006年12月26日号
             −自信を持って立つ
                  小泉純一郎は、政治と演出をミックスして、
          日本を再びいい気分にさせた
            だが、彼は地域の関係を緊張させている



  日本の政治は、いつもは能のようにエキサイティングだ。
(注:これは皮肉の表現で、"退屈"なことを意味する)
  だが、9月の選挙までの経過は、相撲の突きのようにスリルがあった。
 8月、国会は、小泉首相の最重要改革のひとつであった郵政民営化を否
決した。
 彼は衆議院を解散し選挙を仕掛け、大きな政府か、より近代化された競
争のある経済をつくるための痛みを伴う変革を推し進めるかを国民に問
う、国民投票に仕立て上げた。

 復讐に駆れらる日本の伝説や歴史上の多くの武将さながらに、小泉氏は
とくに、郵政民営化法案の通過に反対した37人の自民党議員に対して、
怒りを募らせた。
 彼は自民党本部に、これらの議員の応援をやめさせ、テレビ映りのよい、
女性を多く起用した、メディアが"刺客"と呼ぶ一団を、反逆者の選挙区
に送り込んだ。
 日本のメディアは、こうしたパフォーマンスを嘲笑的に"小泉劇場"と
名づけたかもしれないが、ふだん無気力な選挙民は魅了された。

 選挙全体を新旧自民党の対決とすることで、小泉氏は抜け目なく日本の
第一野党を全体像から押し出した。

 その結果、自民党の構成は、かなり変わった。
 今の自民党を小泉氏のマシーンと呼ぶのは誇張ではあるが、御しがたい
ことで有名な派閥は致命的な打撃を受け、党はかつてないほど一人の強力
なリーダーの下に歩調を合わせている。

 しかしながら、なぜ小泉氏がこれほど興味深く矛盾を抱えた人物で、『タ
イム』が2005年のアジアの"時の人"に選んだかの理由は、その後に
起こったことにある。
 確かに彼は、郵政民営化法案を通過させ、さらなる改革を次々と表明し
た。

 だが、(われわれの)イマジネーションを捉えたのは、彼の改革ではな
い。
 10月17日の靖国神社参拝である。

 小泉氏は首相就任後の毎年の靖国神社参拝を、個人的かつ宗教的な問題
で、日本の戦没者に敬意を捧げ、平和を誓うためのものだと主張する。
 だが、アジアの他の国の人々は、靖国神社と小泉氏の参拝を、日本の戦
争挑発の過去に敬意を捧げていると見ている。
 そして、彼らには理がある。

 日本の植民地主義時代、この神社は、政治指導者たちが国家的征服の正
当化を助けるために利用した、日本土着の宗教の中心部だった。
 彼らは、日本と天皇のために戦争で命を捧げた者の魂は、神として崇め
られ靖国神社で永遠に生きることになる、と宣言した。

 1945年以降、靖国神社は、静かではあるが、日本の頑迷なナショナ
リストたちにとっての、強大かつ不朽のシンボルとなった。
 1959年以降、靖国神社の神官たちは、東條英機のようなA級戦犯だ
けでなく、残虐行為を働いたり、命じたり、阻止しなかった何百人もの軍
人を含む、1000人以上の戦犯をひそかに祭った。

 隣接した博物館には、カミカゼ・パイロットや死の泰緬鉄道や、その他
の日本の戦史の記録が、絶対的な賞賛スタイルで展示されている。

 1937年の"南京事件"の展示では、日本軍が殺害した何万人(おそ
らく何十万人)もの中国市民について言及されていない。 
 そのかわりに、「中国人は多くの犠牲を出して、完敗した。都市の中で
は、住民が再び平和な生活を取り戻した」とある。
残虐行為の婉曲表現として、この説明に勝るものはない。

 というわけで、小泉氏が靖国参拝を続けるたびに、海外での、とくに韓
国と中国での抗議が激しくなるのは、ちっとも驚くにはあたらない。
 小泉氏は、無頓着なようだ。

 この自信こそが、彼という人物の本質である。
 これほど完全に、日本の政治を支配した首相は、ほとんどいない。

 過去4年半の間、小泉氏は著しく一貫したメッセージを発し、国内人気
を維持し、海外では彼自身と日本の地位を高めた。
 大部分は彼が率いる政府のおかげなのだが、経済はより安定し、日本は
楽観的な波に乗っている。
 対外的には、小泉氏は、いつの日か完全な軍隊、平和主義を破棄した憲
法、国連安保理常任理事国の椅子を保有し、日本を米国の従属国からグロ
ーバルな政治の主導的プレーヤーに変えるための、戦後で最も真剣な運動
を率いてきた。

 彼の選挙での圧勝は、経済改革続行の負託を確実なものとした。
 他方、彼の執拗な靖国参拝は、アジアの多くの国々を激怒させた。
国内でこれほどの勢いを見せながら、海外でこれほどの不安を生み出す
人物は、数々の歴史書に記されることだろう。

 これほど時勢に合った人物もまれである。
 当初は遅れがちだった経済改革も、強力な反対者をついに党から追放し、
より小さく機敏で、無駄の少ない政府をつくるためのイニシアティブを再
導入している。

 日本は、迅速な人間を必要としている。
 というのも、日本の政界には、無言の必死な思いがあるからだ。これは、
ほとんど語られることはないものの、暗黙に了解された認識である。
 すなわち、日本がすぐに地政学的に主導的な地位に飛びつかなければ、
二度とその機会は訪れないかもしれないのだ。

 東シナ海の向こうには、小泉氏と同じような自信をもって、アジアのリ
ーダーを狙う国がある。
 日本はまだ世界第二の経済大国だが、もし現在の状況が続けば、二十数
年後には中国に超されることになる。
 そして日本は、前代未聞の人口急減に直面している。

 というわけで、日本の指導者たちは、かつての奇跡的経済を再現して新
たな驚異を生み出し、国際情勢で卓越した地位を確立して、西の目覚める
竜が、列島の隣国を小突き回さぬよう、行動しなければならないことを知
っている。

 その目的を果たすため、小泉氏は、アジアの近隣諸国に対して、露骨な
敵対ではないかもしれないが、大胆な姿勢を展開してきた。
 同時に、対米関係をかつてなく緊密なものにし、今後変えられそうにな
い中国の台頭に対して、米国を緩衝装置にしようとしている。

 日本政府は2月に、台湾海峡の平和が米国との"共通の戦略目標"だと
宣言し、11月には自民党が憲法9条を改正する新憲法草案を書き、日本
政府が、日本が自らの防衛により深く関与するという包括的な日米同盟再
編を発表した。

 しかしながら、アジアの関係を限界点まで緊張させているのは、長年の
日米同盟ではなく、靖国である。

 彼の参拝を問題にしているのは、中国と韓国だけではない。
 6月には、5人の元首相が、小泉氏に参拝を中止するよう呼びかけた。
 (日本の)五大全国紙のうち、参拝を支持する社説を掲げたのは、最も
保守的な新聞一紙である。
 そして今、小泉氏の頑迷さが、日本の長期的国益に、取り返しのつかな
い害を及ぼす危険を抱えている。

 一体全体、なぜ小泉氏は、これほど不人気なことを頑迷に行い続けるの
か? 
 本人は、「戦って死んだ兵士たちに、今後戦争を起こさないと誓うため
に参拝している」という以外、一度も満足に動機を説明したことがない。

 小泉氏は2001年の総裁選で毎年の参拝を約束したので、参拝を中止
して、遺族会の怒りを買うことを恐れているのではないか、という推測も
ある。
 だが、来年9月の退陣を再三口にした彼は、すでに死に体だし、今年9
月の選挙の圧勝で国内の支持がじゅうぶんであることが証明されたのだ
から、外交改善のために国内の有力な選挙民を疎外するリスクを負えるは
ずだ。

 小泉氏の自らの判断に対する自信は、彼を異色の日本の政治家にしてき
た。
 カリスマ性とメディア戦略の手腕、そして世界における日本の地位低下
を懸念し苛立っている国民への的を射たメッセージという、無類の組み合
わせで、彼は政治の議論を前人未踏の領域に追い立てた。

 日本経済を失われた10年から脱却させ、近代世界で最も継続したエコ
ノミック・ミラクルの輝きを再びつかむためには、大胆な何か、あるいは
人物が必要だった。

 だが今、小泉氏の遺産は、どうなるかわからない。
 経済好転に役立った彼の自信と信念が、日本を二十数年間、近隣諸国か
ら孤立させる結果を招いたとしたら、彼は簡単には許されないだろう。
 そして、日本は再び、能のようにいかめしく退屈な政治を求めるだろう。

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 日本国内と海外の小泉観のギャップに斬り込んだ記事だ。
 尚、『タイム』は、本国版『Newsweek』と並ぶ、米国の有力週刊誌で
ある。

 小泉靖国参拝批判で、『ワシントン・ポスト』と『ニューヨーク・タイ
ムズ』の米二大有力紙、『Newsweek』と『タイム』の米二大週刊誌が、
そろい踏み!!

  米二大有力紙による小泉靖国参拝批判を伝えた記事↓
    >>小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場9
  (『Newsweek』の小泉靖国参拝批判を紹介したURLも記載)
 

 次は、あの櫻井よしこ氏の古巣の米紙による、日中関係の分析の要旨を
お伝えしたい。

櫻井よしこ氏の古巣の米紙による、日本の右傾化報道↓
    >>小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場8

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『クリスチャン・サイエンス・モニター』(米)
                   2005年12月29日付
     −ナショナリズムが、中国と日本を引き離す



 2005年の日中間の貿易拡大は、シンボリックな言葉の挑発の高ま
りや世論と外交関係の確固たる低下と組み合わされ、アジアの将来にとっ
て最も重要な競合者間に新たな淵を作り出している。

 そして今年は、険悪な雰囲気で終わろうとしている。
 先週、中国は、アジアでの経済的台頭を、公式に"平和的発展"とする
政策を宣言した。

 だが、その後24時間も経たぬうちに、日本の新外相、麻生太郎氏は、
中国の核プログラムと秘密主義の軍備増強が相当の脅威となっている、と
警告した。
 日本の外相がこのように大胆な懸念発言を行ったのは、初めてだった。

 ワシントンの情報調査分析センターのアジア専門家、ジェームズ・マル
ヴェノン氏は、「第二次世界大戦以降で、中日関係は最悪の時期を迎えて
いる可能性がある」と語る。

 日本と中国の間に、暴力的な紛争が起こると予想するアナリストは少な
い。両国とも、実利的でプラグマティックだとみなされている。
 それでも、台頭するナショナリズムと恐怖、歴史的敵対意識というネガ
ティブな力学が、そしてアジアにおける中国の急速な経済拡張が、仲介機
構や仲介国がない状態で、作用している。

 外交官、そして中国と日本の政府高官までが、私的な場で、米政府はイ
ラクなどの優先事項に気を取れられているようであまり注意を払ってい
る様子はない、と言う。

 麻生氏の警告の2日後、日本政府は海上配備型迎撃ミサイルの日米共同
開発の着手を発表した。
 米国と日本は今年初めから、軍事同盟強化を行ってきた。

 現在、アジアの二大大国の指導者どころか、外相でさえ、会談の予定は
ない。
 
 他方、ビジネスなどでよい関係にあるにもかかわらず、中国と日本の世
論もお互いに転落を続けている。

 10月の靖国神社参拝以来、小泉首相は日本の経済界から、重要なビジ
ネス・パートナーの挑発を控えるよう、働きかけられるようになった。

 中国にも日本にも、両国の冷たい関係を許し、それどころか、注意深く
養い、運営しなければならない、強い国内的理由がある。

 中国は共産主義国家だが、もはや大半の国民がイデオロギーに魅力を感
じなくなっているにもかかわらず、権威と正当性は共産主義の支配構造に
頼っている、と専門家は指摘する。

 この体制下で、第二次世界大戦での日本の支配に対する憎悪が、イデオ
ロギーに代わるもののひとつとなり、アジア一の大国になりうる誇れる中
国を建設することが、国家的団結をつくるひとつの方便になっているのだ。
 日本の小泉首相が、1970年代に十数人の戦犯をひそかに祭った靖国
神社を参拝すると、中国のナショナリズムの炎を掻き立てることになる。

 マルヴェノン氏は、「ドイツのメルケル首相が、ナチの高官やヒトラー
の仲間が十数人も葬られている墓に、何度も公的に追悼に行くことを想像
してみてほしい。とんでもないことじゃないか?」と指摘する。

 日本では、中国の台頭が主要な政治トピックになっている。
 日本の政治家は、自民党党首でさえ右傾し、より誇らしく"自信を持っ
て立つ"論理で票を集めようとする。
 日本は、米国への依存を減少させて"普通の国"になろうとした。
 かつて日本国民は、周辺の危険の例として、北朝鮮のキムジョンイルを
挙げていた。

 だが、今日では、話題は非道な中国の脅威になった。

 麻生氏が中国の大幅な軍事費増加についてコメントした後、中国政府は、
年間軍事費は256億ドルだと激しく繰り返し公表した。
 それでも、これを信じる中国専門家は少ない。

 ある北京在住のヨーロッパの研究者は、「もし日本のような島国にいた
として、自分の国の数倍もある巨大な隣国が軍備を近代化し始めるのを見
たら、心配するだろう。とてもベージックなことだ」と指摘する。

 中国と日本の間で進展する冷え込みに関して、多くのアナリストたちは、
誤算を懸念している。
 誤算の可能性のひとつとして、日本が過去の戦争について相手が納得す
る謝罪を行えず、靖国神社を利用することでアジアにおいて微妙な民族的
嫌がらせをする(そして国内で拍手喝采を受ける)ことが挙げられる。

 もうひとつの誤算の可能性は、中国政府が自分の強大さがアジアでどう
見られているかを理解できず、その平和的な意図を他国に確信させること
ができない状態が挙げられる。

 マルヴェノン氏は、「中国人の友人が、なぜ日本はそんなに心配するの
かと尋ねてくるたびに、中国人のせいにほかならない、と話している。彼
らが軍備近代化でこの不和をつくりだしたのだ」と言う。

 今のところ、米国は積極的にこの冷え込みを緩和しようとはしていない。
 元米国大使のジェームズ・グッドバイ氏は、「米国は、この地域のどの
国よりも、北東アジアの地政学的文脈の変化をリードする位置にある」と
述べる。

 彼は、「ごく最近まで、ブッシュ政権はこのユニークな役割を実行する
気がなかった」と言う。

 だが、グッドバイ氏は、ここ数週間のうちに、ホワイトハウスが(この
地域の)安定に貢献することができるかもしれない可能性を、より深く"認
識"したかもしれない、と付け加える。

。。。。。。。。。。。。。

 いよいよ、米政府も、本気で東アジアのすったもんだを気にし始めたこ
とを示唆している。


続く