戦争・軍事 > 海外メディア視線

小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 19

(報告:常岡千恵子)


  ところで、2006年2月13日、米紙『ニューヨーク・タイムズ』が、
「日本の不快な外相」と題する社説を掲げ、麻生外相を非難した。

  この社説は、広く日本でも報じられたので省略させていただくが、この
社説に対し、在ニューヨーク日本総領事代理の佐藤博史氏が2006年2
月18日付で『ニューヨーク・タイムズ』に送った反論の手紙が、2006
年2月23日付同紙の"編集長への手紙蘭"に掲載された。

  佐藤博史氏の『ニューヨーク・タイムズ』への投書↓
 http://www.cgj.org/jp/h/98.html 
	  
 

  米国の日本政治専門家ジェラルド・カーティス氏は、前回の連載でご紹
介した『フィナンシャル・タイムズ』への寄稿で、日本は広報の地球規模
的大失敗に陥ろうとしていると述べたが、先日お伝えした在米日本大使館
公使の北野充氏の寄稿と併せ、外務省のこのような広報活動がどれぐらい
成果を上げているのか、今後じゃんじゃんご紹介する海外英文メディア報
道(中国と韓国を除く)の要旨を読んで、しかとご確認いただきたい。

  みなさ〜ん、これは民主主義国家の納税者の義務ですよ〜〜!!

    北野充氏の反駁寄稿とその欠陥のおさらい↓
 >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場15
  >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場16 

。。。。。。。。。。。。。

『ISI エマージング・マーケッツ・アフリカワイヤー』(南アフリカ)
                                         2006年2月25日付
          −悪しき隣人として振る舞う
  麻生外相が、日本の第二次世界大戦前の台湾の植民地化のおかげで、
台湾の教育レベルが上がったと発言し、日本とアジアの近隣諸国との関
係が、今月、さらに落ち込んだ
		  


  2月4日、彼は聴衆に「台湾は(植民地時代に)教育水準が上がり、今
もきわめて教育水準が高い国であるがゆえに、今の時代に追いつけてい
る」と述べた。

  この発言は、保守派として有名な麻生氏が、1月に、天皇の靖国神社参
拝を示唆して、物議を醸した後に出てきたものだ。
  靖国神社には日本の戦犯が祀られ、すでに中日関係の摩擦の中核となっ
ている。

  日本が連合国に敗れた1945年まで日本の植民地支配の犠牲とな
った中国と韓国は、日本の政治家が日本の軍国主義のシンボルである靖
国神社を参拝することを、とても不快に感じる。

  中国政府は、麻生氏の発言を、日本のおおっぴらな植民地支配の美化
だと、非難した。

  日本の植民地時代、日本は台湾人に、日本語学習と、日本の天皇への
忠誠を強制した。

  (日本の)外交専門家は、日本と中国の間の最新の騒動が、2001
年の小泉首相就任以来、冷え込み続けてきた日本の東アジア外交復活へ
の望みをほぼ消し去った、と解説する。

  東アジアとの関係を反転させることは、過剰な親米姿勢を推進する小
泉外交を再考しはじめるアナリストが増えるにつれ、今や白熱の国内問
題となった。

  小泉外交が国内で支持を失っている兆候として、日本の政界に影響力
のある権力者、『読売新聞』主筆の渡辺恒雄氏が、新たに批判に加わっ
たことが挙げられる。

 小泉首相の靖国参拝批判を含む渡辺氏の発言は、現在、アジアとの未
来の関係において、重要な転機を迎えている日本の態度の変化を反映し
ている。

 緊張を緩和させるため、一部の自民党議員も、靖国神社の替わりとな
る無宗教追悼施設の建設を要求しているが、麻生氏はこの動きに反対し
ている。

 桐蔭横浜大学の石山宏一教授は、渡辺氏は知識人や経済界の間で募る
懸念を象徴している、と主張する。

 アナリストたちは、日本とアジアの関係は、経済的利益においては堅
固な基盤を維持しているが、批判者たちは、これが日本において安全保
障に関する誤った感覚をつくりだしている、という。

 たとえば、彼らは、日本政府が北朝鮮による拉致問題を解決できない
ことを指摘し、中国政府の助けなしには解決できない、という。

 東アジアとの貧相な関係を補うために、日本政府はインドにアプロー
チしている。

。。。。。。。。。。。。。

『ガーディアン・アンリミティッド』(英) 2006年2月28日付
     −"私たちは日本のために死ぬ覚悟だった"



 何のために、誰のために、日本の250万人の戦没者は命を犠牲にし
たのか?

 日本の麻生外相によれば、彼らは天皇のためにそうした。
 極端な保守派の麻生氏は、日本の政治指導者でなく、象徴的元首が、
論争の的の靖国神社を参拝する日を待ち焦がれている。

 実は、麻生氏や今日のナショナリストたちは、日本の19世紀と20
世紀の戦争で死んだ男女の胸に何が去来したのか、われわれと同じぐら
いわかっていないのである。

 彼らは、浜園重義氏と一時間ぐらい一緒に時を過ごし、真に信頼性の
置ける説明を聞くべきだ。

 九州の彼の自宅付近で見せてくれた白黒写真には、勇ましい若きパイ
ロットそのものの姿があった。

 この写真が撮影されたのは21歳のときで、彼はカミカゼ特攻隊の一
員として別れの言葉を述べて、日本の戦争に貢献するはずだった。

 彼は1941年の真珠湾攻撃後に海軍パイロットに志願し、1944
年後半に、フィリピンで英国の巡洋艦を狙った自爆攻撃の準備をしてい
た。

 だが、彼の零戦はエンジン・トラブルを起こし、台湾の基地に戻らな
ければならなくなった。
 台湾では、エンジニアたちがわざと修理を遅らせた。

 彼が帰国したときには、特攻隊の価値に対する疑いが浮上していた。
 戦争末期に2000機のカミカゼ機が放たれたが、わずか34隻の艦
艇しか沈没できなかった。
 それでも、彼の上官は、死の出撃を命じた。

 米国機とのドッグファイトの末、彼とその零戦は損傷を被った。

彼は、「ドッグファイトの終わりに、彼らが遠くから接近してくるの
が見えた。すぐ殺されると確信した。だが、接近してきた彼らは、機体
をバンクさせて、飛び去った。今でも、なぜ彼らがそうしたのか、わか
りません」と述べた。

 闇の帳が降りるなか、彼は知覧に戻った。
 彼は、全身やけどし、歯が5本しか残らなかった。
 彼の任務は失敗に終わった。

 終戦まで数週間の時期に、彼は、いまだに英雄として死にたがってい
た若いパイロットたちの訓練に当たった。

 現在81歳の浜園氏は、唯一残念に思うのは、多くの同僚が死んだこ
とだと語った。

 彼は、敵艦艇に突撃した若者たちが、喜んで無視無欲の天皇への忠誠
を示すためにそうしたという見方を一蹴した。

 彼は、「天皇について、言わなければならないことを言っていたが、
心からそう感じていなかった」と述べ、「死ぬ覚悟でしたが、それは家
族と日本のためでした。私たちは、本気で天皇のために死にたいと言う
人々は、間違った方向に導かれていると思っていました」と語った。

 2001年9月11日、アルカイダのテロリストたちが世界貿易セン
ターのタワーに突撃したとき、当然、カミカゼにたとえられた。

 だが、浜園氏は、彼と仲間の特攻隊パイロットたちが、今日の自爆テ
ロリストの先駆者ではないかという意見に、反発した。

 「私たちは、まったく違っていた」と彼は言った。
 「私たちは、同胞のためにやったのです。テロリストはまったく利己
的な理由で、自ら死んでいる。彼らが今日のカミカゼと呼ばれているの
を耳にしても怒らないが、愛ではなくて、宗教が彼らをそうさせている
のが、気にかかります」と語った。

 今日の自爆テロリストは、自爆の直前に彼らの神の名を口にするだろ
うが、カミカゼはどうだろうか?

 浜園氏は、もし任務が成功していたら、日本の戦争中の国家神道やそ
の精神的傀儡とは何の関係もない最後の言葉を発していた、と確信して
いる。

 「お母さん。この一言ですね。数秒しか時間がないし。私たちが、死
に直面して笑っていたというのは、作り話です」。

。。。。。。。。。。。。。

『ニュー・ストレーツ・タイムズ』(マレーシア)
                     2006年3月2日付
     −歴史問題に悩まされる関係
		  


 中日関係のよいことは、両国が対話を続けていることだ。
 悪いことは、歴史をはじめとする、両国の見解が分かれる主要な問題
のどれもが、前進していない様子であることだ。

 今日の両国の関係は、1972年の国交回復以来、最悪だ。

 先週、関係改善を試みる日本の政治家が、何人も訪中した。
 もっとも重要な訪問者は二階経産相で、ウェンチアパオ首相をはじめ
とする中国の要人たちと会談した。

 だが、事態はほとんど進展しなかった。

 ひとつ、ポジティブな展開としては、米国が、中日間の問題解決を助
けようとしているらしいことが挙げられる。

 11月、韓国のAPECサミットで、ブッシュ大統領は、小泉首相と
フーチンタオ主席に歴史問題を解決するよう、促した。
 それまで米政府は介入しない姿勢を取ってきたが、日本政府に多大な
影響力のある米政府は、日本がアジアでだんだん孤立していくことを恐
れているようだ。

 さらに、日本の歴史的立場は、必然的に米国を巻き込む。
 たとえば、小泉氏が再三参拝している靖国神社は、戦争犯罪裁判の正
当性を否定している。

 また、小泉氏は靖国神社参拝を、日本の今日の平和と繁栄は第二次世
界大戦の兵士の犠牲に負っている、と正当化しているが、これは、日本
の中国侵略や、東南アジア支配、真珠湾攻撃を正当化することを示唆す
る。

 だが、今までのところ、米国はこの問題について黙している。

 中国は、小泉氏とやりとりすることを諦めたようだが、麻生外相をは
じめとする、後継者有力候補は、小泉氏と靖国観を共有しているようだ。

 10月に外相に就任した麻生氏は、中国批判派の中心的存在である。
 彼は、上海の日本人領事の自殺について、何ヶ月間も、中国を非難し
ている。

 中国政府は、この主張を否定している。

 だが、両国がまだ対話をする意志があるという事実は、双方が関係改
善を望んでいるということだ。

 そして、米国が仲介すれば、行き詰まりを打開できるかもしれない。

。。。。。。。。。。。。。

 さて、お次は、以前にもご紹介した、日本政府から旭日中綬章を授与
された、大の親日インドネシア人による論評の論旨をご覧いただきたい。

  ユスフ・ワナンディ氏の2006年2月の論評↓
  >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場17

。。。。。。。。。。。。。

『ジャカルタ・ポスト』(インドネシア)   2006年3月3日付
     −東アジアにおける最近の戦略的展開とその意味
                      ユスフ・ワナンディ筆




  国家間の関係のあり方の合意を見つけることが、今の主要な課題だ。
 東アジア地域主義がつくりだす環境が、この努力に役立つメカニズム
になることを望む。

 日本の首相が、第二次世界大戦についての徹底的な修正主義的解釈を
掲げ、隣接する博物館でそれをあからさまに展示している靖国神社を参
拝することは、この地域にとってまったく受け入れ難い。

 中国は、若い世代のナショナリズムの噴出を抑制し、戦後日本の平和
的かつ協力的な発展も教える必要がある。

 もうひとつの広大な国、インドも、経済的には中国に遅れを取ってい
るが、大国になる可能性を持つ。
 冷戦時代にソ連の親友だったインドが米国に接近するのはこれが初
めてだが、唯一の超大国と協力しながら、カシミール問題の解決を模索
し、未来において中国のバランサーになろうとしている。

 米国も、インドをもうひとつの潜在的な経済大国かつ中国に対する戦
略的バランサーと見ている。
 これが現実的で可能であるかどうかは、核拡散防止条約未加盟のイン
ドの核開発に協力するという米国の新しい政策が、テストのひとつとな
るだろう。

 だが、インドはひとつの大国であり、誰にも追従しないことを忘れて
はならない。
  インドは、中国の戦略的パートナーであり、インドのハイテク産業が
中国のより強力な生産能力で補完されれば、両国にとって真にポジティ
ブな組み合わせになりうる。

  一方、日本も、経済の相互補完できる可能性の高い民主主義国家とし
て、インドへの接近を図っている。

  韓国でも世代交代が進み、若い世代がノムヒョン大統領を選出し未来
を担おうとしているが、米韓関係に課題をもたらしてもいる。

  最大の問題は、北朝鮮との関係であり、とくに核開発の譲歩である。

  現在のところ、6カ国協議が、北朝鮮の核開発問題を解決するための
唯一のメカニズムだ。
  韓国は、二国間関係の強化が解決をもらすかもしれないと考えている。
  米国は、この政策に対して、懸念を覚えている。

  結局、中国と日本の間で曖昧な態度を取る韓国は、まだ米国を必要と
し、北朝鮮の核開発問題の解決や同盟関係のあり方をみつけなければな
らない。

  ASEANは、対テロ政策以外では、長らく米国に無視されてきた。
  ゼーリック国務副長官は、経済・戦略的理由から、ASEANに対し
て、これまでより大きな注意を払っている。

  ASEANは、地域機関確立の原動力となることを期待されてきた。
  この地域の二大国である中国と日本が、現段階ではそのタスクを負え
ないからだ。

  米国は、ASEANに対して、東アジアを含むアジア太平洋地域にお
ける米国の存在を保証する2つの重要なプロセス、APECとASEA
N地域フォーラムを改革し回復する触媒になることを期待している。

続く