インフラ海外拠点イラク

大手英米メディアの自衛隊報道5

(報告:常岡千恵子)


  これまではサマワの自衛隊報道に焦点を絞ってきたが、実は去年あた
りから、海外メディアによる自衛隊や日本の防衛政策についての報道が
増えている。

  もちろん、海外メディアの報道は、日本に関する知識が乏しい母国の
読者に向けられたもので、日本のメディアによる国内報道のように細か
いディテールには踏み込まない。

  しかし、かえってそのぶん、問題点を整理し、状況を大局的に捉えた
報道が多い。しかも、外から日本を見ているので、冷徹な分析が多い。
  船が大きく舵を切っている時は、往々にして、船に乗っている当事者
よりも、外から眺めているほうが、その動きがよくわかるものだ。

  というわけで、転換期にある日本の防衛を、大手英米メディアがどう
捉えているか、要点をご紹介したい。

 ただし、再三繰り返すように、欧米のメディアは、欧米政府とは距離
を置き、独自の視点で報道する。
本コラムでご紹介しているのは、あくまでも英米国民が、どのような
報道を通じて日本を見ているかということであり、英米政府の立場とは
異なる。

  サマワの場合は顕著すぎる例だが、日本国民が知るべきことを、諸外
国の人々が知っていて、当の日本国民だけが全然知らないという、"い
つか来た道"のような事態だけは、何としても避けたいものである。
 

。。。。。。。。。。。。。

『ワシントン・ポスト』(米)  2004年11月7日
     −日本の野心を表明する訓練


潮風の中、日本の部隊が係留された容疑船舶の右舷の梯子を昇り、ク ルーを取り押さえ、船内を捜索し、サリンとされる物質を発見した。 先月末、日豪仏米の間で行われた訓練は、テロリストや反逆国家、と くに北朝鮮の武器密輸を阻止する意志を表明するための、マスコミのカ メラ向けのイベントだった。(注:本年10月27日に行われた、海上 自衛隊による大量破壊兵器拡散防止構想の展示訓練を指す) だが、第二次世界大戦以降、侵略者というイメージを避けてきた日本 にとっては、注目度の高い軍事演習で主導的な役割を担う決断をしたこ とにより、珍しく軍事力を示す場となった。 また、この訓練は、日本のもうひとつのミッション、すなわち、経済 大国以上の国家たらんとする使命をも浮き彫りにした。 国際舞台で積極的な役割を求めている日本は、現在、国連安保理常任 理事国入りと、自衛隊を正式な軍隊に変えるキャンペーンを、展開中だ。 他方、日本政府は、この新たな野望と、軍国主義の過去への国民の深 い拒絶との狭間で、折り合いをつけようと苦労している。 たとえば、先月実施された停船検査の訓練も、装備をつけて走り回る 隊員たちより、表に出ない要素のほうが印象深かった。 日本政府は、攻撃的なイメージを抑えるために、訓練参加者の武器携 帯を禁じるよう求め、訓練の対象国を公式に名指しすることも避けた。 しかし、米政府高官が、この訓練は北朝鮮へのメッセージであると公 言した。 さらに日本政府は、外国と対峙している印象を避けるために、訓練の 容疑船舶に、日本の国旗を掲げた日本の駆逐艦を使用するよう主張した。 そして、憲法における武力の制約という点から、容疑船舶の船長が、 捜索部隊に口頭で乗船許可を与えなければならなかった。 それでも、日本の軍隊は彼らなりに、地味な存在から脱皮しつつある、 とアナリストたちは言う。 英国よりも大きな軍事費を持つ日本は、現在のイージス駆逐艦のほぼ 倍のサイズの、1万3500トンのヘリ空母保有に向けて準備中だ。 北朝鮮のミサイルの脅威に対しては、米国とミサイル防衛の共同研究 を進めている。 この研究は、武器輸出三原則の撤廃を余儀なくするであろう。 また先月、首相の私的諮問機関が、情報網の強化などを含む、10年 ぶりの安全保障政策の見直しを勧告したが、すでに日本は、昨年、偵察 衛星を打ち上げている。 来年には、もっと柔軟に海外派兵を行えるよう、憲法9条改正の議論 が始められる予定である。 町村外相は、インタビューで、「国際紛争で、もっと日本が大きな役 割を果たすことを期待されている」と述べた。 日本は今、ペンタゴンと日米同盟の再定義を交渉中だ。 日本の官僚によれば、"グローバルな視点からの同盟"という新たな コンセプトが討議されており、自衛隊が国内外において米軍とより密接 に行動することになる。 今年7月、ベーカー駐日米国大使は、「日本は、『われわれは世界第二 の経済大国で、おそらく太平洋で二番目に大きな海軍を保有している。 常任理事国入りしたいし、国際的な役割を果たしたい』と決意したと思 う」と語った。 しかしながら、経済力に見合った外交力を持とうとする動きは、国民 にもっと大きなリスクを担う意志があるかどうかを試している段階だ。 自衛隊イラク派遣は、その最もよい例である。 自衛隊イラク派遣は、戦略的重要性が乏しいと見られ、国内ではたい へん不評だ。派遣延長に際し、小泉首相は激しい抵抗に遭っている。 イラクでの任務はより危険なものとなり、失敗の烙印を押されるリス クをはらんでいる。 治安悪化のため、自衛隊は宿営地外の活動を断続的に制限した。 防衛庁によれば、隊員たちは、1週間前のロケット弾攻撃以降、全員 宿営地内にとどまるよう、命じられている。 日本人兵士は一人も負傷していなし、戦闘で一発も発砲していない。 日本は75万ドルを費やして、自衛隊が、他国の軍事作戦とは別個の、 人道支援団体だとイラクで宣伝してきた。 だが、イラクのイスラム過激派が、日本人のバックパッカーを誘拐し てその首を切り落とし、発見された彼の遺体は星条旗に包まれていた。 ある日本政府高官は、匿名を条件に、「任務はまだ完了していない。 もしここで打ち切れば、いろいろな意味で間違ったメッセージを発する ことになる」と述べた。


続く