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恋するアズィーザ/唄うクレオパトラ1




【アズィーザの家】

朝陽が上る前の冬の日の朝だった
まだ見ぬあなたの故郷へと飛び立ったのは
何かあったらどうするんだと声を震わせるあなたに
きっと大丈夫だからと言って旅立った
どうしても譲れなかったのは
あなたの生まれた場所に行ってみたかったから
ただあなたが生まれた家を見たかったんだ
あなたの家族に会ってみたかったんだ

あなたのお母さんは私を迎えて
何があっても守り抜くと神に誓い
私をあなたの家へと連れていった
村で誰かとすれ違うたびに
お母さんがそっと囁くの あなたの友達だって
あいつに恋人はできたかな?って尋ねられたんだ
ここにいるよと言いたかった
目の前にいるよと言いたかった

(チェチェン・カティル・ユルト村:2008年6月)
神がいると信じられなかった私に
神がいると教えてくれたのはあなただった
あなたに知られたくなかった過去の傷とか秘密とか
嘘をついてるみたいでいつも怖かった
もう一度すべてをやり直しかかった
たとえ一人になったとしても神だけはいるのだと
心から信じられるようになったの 
心から神に祈れるようになったの

お母さんがくれたスカーフは黒髪に似合っていて
この日から私、アズィーザになったんだ
神が君をこの家に導いたんだよって
あなたによく似た弟が言った
だから何も悪い事なんか起こりやしないよって
こぼれ落ちる涙は一晩中止まらなかった
込み上げてくる気持ちは全部涙に変わっていた
このままずっといたかった 私の新しい家に

私が18で飛び出したふるさとの山と 
あなたが19で追われたふるさとの山は
なんだかとてもよく似ている気がして
あなたの愛した雪景色を眺めていたら
私が愛した雪景色と重なった
私たち似た者同士だって言われたんだ
気づいていたよ 出会ったあの日から
きっとあなたもそれに気づいていたよね

最後にあなたの家を訪れたのは暑い夏のことでした
みんなもういなかったけど 親戚や近所の人たちが
私に会いにかけつけたんだよ
もう来ないかと思ったって 心配してたんだよ
君の一番最初に来る場所はここなんだよって
君のために門はいつでも開いているんだよって
別れが辛くて涙が溢れ出した
こんなに愛されてるだなんて知らなかったんだから

(チェチェン・グロズヌイ:2008年6月)
あれがチェチェンでの最後の一日になるって
あの時は思ってもなかった
あれがチェチェンでの最後の一日だとしたら
とても幸せな最後だったよ
もしもいつかチェチェンに戻れるなら
真っ先にあなたの家を訪れるでしょう
いつの日かあの家でみんな笑いあえる 
そんな日を夢見て私は戦ってる

気づいた時にはもうその夢が
叶わなくなっているかもしれないから
愛しあう者は一緒にいるべきよって
教えられたの 愛する人を失った女性に
今ならその意味がわかる
もしもあなたに出会わなければ
私は人を愛することなんてなかったかもしれない
もしもあなたに出会わなければ
私は神を信じることなんてなかったかもしれない



アズィーザ・クレオパトラ(AzizA=菊池由希子)のブログ

続く