活動ゴジラ・怪獣関連特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観+α

特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観

『ウルトラマン』・現想夢譚バージョン2002<5>



 『ウルトラマン』の作品群は、戦時下の世界を描いた硬質な『ウ
ルトラセブン』とは異なり、あくまでも平和時を設定し、科特隊も
軍隊ではない。そのため、シリーズ全体がホンワカとした牧歌的な
ムードに包まれ、ウルトラマンの優しさが強調されることも多い。
その中にあって、あえて冷酷なウルトラマンを登場させた「故郷は
地球」は、ひときわ異彩を放つ。1960年代半ばという冷戦たけ
なわの時代に、反体制派の脚本家が書いた先鋭なストーリーと、フ
ランスのヌーヴェルバーグ映画の影響を受けた鬼才監督が創造した
アヴァンギャルドな映像は、あまりにも生々しく、今も涙なしには
観られない。
 それにしても、この作品の誕生から三十数年を経た現在も、世界
があまり変り映えしていないことに、愕然とさせられる。国家間競
争の犠牲者となったジャミラは、文明間の争いの犠牲になった人々
と、重なりはしないだろうか? アフガン復興支援国際会議直前に
発生した、無差別テロを思わせる連続爆発事件は、何だったのだろ
う? あの日の雷鳴は、大国の論理に振り回された犠牲者たちの魂
の叫びではなかったか? そして、ソルトレークシティー・オリン 
ピック開会式に運ばれた、世界貿易センターの瓦礫の中から発見さ
れたという星条旗は、間一髪でジャミラの手を逃れた、あの旗では?

 しかしながら、どうやら現在の日本は、もはやフィクションの及
ばぬところまで行きついてしまったようだ。この国では、犠牲者に
美しい文句を捧げることすらなく、人々はこざかしい内向きの政争
にうつつを抜かすばかりであった。 


Special thanks to Mr Kenjiro Kato & Ms Hiroko Morohashi, 
      for their invaluable suggestions and moral support