ヒマヒマヒマヒマモード

選挙戦で瀬川牧子が発見:グラマラス天使




 
2012年12月13日
 早朝6:00、零度近くの凍えるような寒さの中、千葉県のJR四街道駅で
「未来の党をよろしくお願いします!」と威勢の良い声が響く。選挙のチラシを
通勤者に配布するスタッフの中に、ひと際目立つグラマラスな美女が。日本人離
れした風貌と迫力で、一瞬、ロシア系女性かと思った。
 強い目力が印象的だ。毛皮のコートの上に、未来の党のシンボルカラー・桃色
のジャケットを着ており、個性的な帽子を被っている。どこの国の人だろう?
「この帽子です?キルギス共和国で買いました。キルギス人の手製ですよ」と説
明し、「よくチェチェン人ですかとかと聞かれます」と照れ笑い。国際人権活動
家の菊池由希子さん(29)だ。
 嘉田由紀子代表が掲げる「脱原発」「子ども・女性支援」などの政策に共感し
て、「未来の党」の“かわかみみつえ”を応援することになった。
 選挙での戦いは産まれて初めてだという菊池さんは、「こんなに大変だと思わ
なかった。筋肉痛です!」と苦笑。
 笑顔の裏には、選挙の激戦には負けるとも劣らない“戦歴”をお持ちだ。17歳
の頃から、ユーラシア大陸をまたに戦火や激戦を潜り抜けて来た。チェルノブイ
リ、ロシア、チェチェン、東北、福島を駆け抜けてきた。
 
 菊池由希子という名前は6年前の2006年、一時、各国メディアで話題に
登った人物でもある。ロシアのモスクワ国立大学に留学中に、戦争で頭に弾丸の
破片が残留したチェチェン難民の少年の生命を救おうと、基金を設立。手元に集
まった数百万円で、少年を青森県弘前市の弘前大医学部付属病院で手術を成功さ
せた。当時、一部、海外メディアは、菊池を“チェチェンの天使”と呼んだ。

少年との出会いを契機に、彼女はチェチェンや支援活動を開始するが、こうした
人道支援がロシア国家にとっては「国防の危険あり」と映り、ロシアから追放さ
れてしまう結果に至る。その後、20代前半にして欧州でチェチェン難民や元戦
士らと親交を深め、人権問題に益々関心を抱くようになった。

戦歴の始まりはロシアだが、元々彼女がロシアに留学しようと思ったのは、17
歳の時に目撃した“チェルノブイリの廃炉”が原風景にあるからだ。
チェルノブイリ事故が起きた時、菊池は3歳未満だった。小学校高学年の頃から
チェルノブイリ関連の本を手にしては、原発への想いを膨らませて行った。

そして青森県弘前市の県立高校2年生、17歳で、日本チェルノブイリ連帯基金
のツアーで、ウクライナのチェルノブイリ原発を訪問。「チェルノブイリの4号
機の目の前まで行きました。不気味だった。放射能のことがよく分からなかった
けど、風向きが変わる度に電光掲示板の線量計数値が変わるのを見ました」と現
場の恐ろしさを静かに語る。
「原発を決めるのは政治。政治が変わらなければこうしたチェルノブイリの悲劇
は食い止められない」―。と17歳ながらにそう直感し、モスクワ大学で国際政
治学を勉強する決意を固める。在学中はロシア語での猛勉強の日々が続き、国家
資格である国際関係専門士を修める。
 チェチェン難民との関わりから少し、初心の原発政策などの計画からは脱線し
てしまったようだが、2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原発爆発
事故が彼女を宿命へと戻す。
 
 原発事故当初、放射能の拡散が懸念される中、5月のゴールデンウィークで、
原発圏内7k〜35kの福島市南相馬市に向かい、チェチェン料理などの「炊き
出し」を避難民に振る舞う。それを突破口として、福島に限らず、北は岩手県岩
泉市、南は埼玉県加須市など隅なく仮設住宅にボランティアで回っている。東北
を訪問した数知れず、これまで軽く50回は超えている。

被災地炊き出し活動戦歴


そんな彼女の人情味に惚れてか、米雑誌『タイムズ』で「最も影響を与えた世界
の100人の男」に選ばれた南相馬市長・桜井勝延氏も菊池の被災地支援に熱い
エールを送る一人だ。桜井・南相馬市長も旧ソ連への遊学体験があり、菊池とは
ロシア語仲間だ。市長が地元住民と一緒に、原発震災のただ中、12年間以上
闘っている産廃裁判に対しても彼女は応援している。

東北の中でも、南相馬市との関わりは深い。今年5月には一時、本格的な地元支
援を目的として、同市内に住居を構えた。同月(5月)には、キルギス共和国の
マラソン大会に、7月にはモンゴルのマラソン大会に南相馬市民らを送り出した。

震災ただ中も、東北や福島だけでなく、国際社会との絆も深め、昨年10月に
は、外務省派遣のOSCE国際監視団要員として、キルギス共和国大統領選に参
加。約1週間、開票などの様子を監視した。来年1月には、ウクライナ共和国の
研修生として、働く予定。「インターンでは、これまでのチェルノブイリの対策
調査が目的ですが、是非、私が見て来た福島の政策と対比させたい」と抱負を語る。
 
「未来の党」を応援しようと思ったのも、こうした原発政策への長年の想いがあ
るからだ。原発への想いがあってか、彼女のウグイス嬢としての評価は周囲から
そこそこに高い。「声の性質がいいね。初めてということもあるからプロと比較
するとちょっとまだかなと思うけど、原発への想いがあるから、心に届く響きが
あるね」と仲間のスタッフの男性(秦貴志さん)は話す。

「脱原発だけでなく、未来の党では女性支援、子育て支援も充実させてほしい!
子どもの数も少なくなっているし、次の世代をどんな風に作って行くかが課題だ
と思います」と目を細める。根は「みちのく・東北」のシャイ・ガールだ。
 
写真/文:瀬川牧子(バイオリン歌手・英語通訳)