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海外メディアの"靖国神社"報道 8

(報告:常岡千恵子)


さて、お次は、カナダの地方紙の報道の要約をお楽しみいただきたい。
	  
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『オタワ・シチズン』(カナダ)     2005年6月28日付
     −記憶喪失の国
  歴史が日本を悩ます。

  新聞は、毎日、日露戦争や韓国の"従軍慰安婦"、南京大虐殺、東京大
空襲、広島、長崎と、この国の厄介な20世紀の一片を再現しているかの
ようにみえる。

  そして毎日、この国は、固く否定しているようだ。

  この国では、記憶はほとんど問題にされない。
  原爆投下のように日本に起こったこと以外は、悪い事が発生しても、簡
単に無視され、退けられ、軽んじられる。
  記憶喪失の国において、いかに容易に侵略者が解放者になるのか、興味
深いところである。

  終戦から60年、日本のほとんどが、勘違いの下で努力している。
  この状況は、世界から尊敬を得たいと願っている日本を、そのために必
要な自己意識を欠いた、不完全な社会にしている。
  さらに悪いことには、日本が内省することを恐れているため、韓国や中
国などの近隣諸国に、不信の種を蒔き続けているのだ。

  自身に対して真に公正な国なら、A級戦犯が祭られている靖国神社を、
首相が参拝するだろうか?

  また、国連が「第二次世界大戦中、最悪の残虐行為」と呼んだ、1937
年の南京での出来事を軽視し続けるだろうか?

  靖国神社についての問題は、多くの日本人がこれを問題と考えていない
ことだ。
  この倫理上の無分別は、天皇は正しく、日本は自衛戦争を行ったと主張
する、時代錯誤で保守的なナショナリストたちによって熱烈に是認されて
いる。

  さらにひどいのは、新装した博物館の、遊就館だ。

  その歴史認識によれば、息子が母親のレイプを強いられ、赤ん坊が銃剣
で刺殺された南京での出来事は"事件"で、「都市の中では、住民が再び
平和な生活を取り戻した」と片づける。

  日本の首相が崇敬する靖国神社に隣接した"日本最古の博物館"で、こ
の種の身の毛もよだつような虚偽が、真実として示されている。

  確かに、遊就館は、政府ではなく、遺族会が運営している。
  確かに、日本の他の博物館は、日本の戦争に批判的な見解を呈している。
  確かに、世論調査では、日本人の多くが小泉首相の靖国神社参拝に反対
し、長老政治家たちは批判している。
  そして確かに、中国は、南京以外の理由で、反日デモを推進した。

  とはいえ、小泉氏は、嘘に正当性を与え続けている。
  広島の博物館などの他の日本の博物館は、事実上、南京の恐怖やその他
の戦争犯罪を無視している。

  そして今日、日本には選択の機会が与えられている。
  戦後のドイツのように、恐ろしい過去を直視し、近隣諸国との和解に努
めることができる。

  しかしながら、このようなことは起こりそうにない。
  過去を否定することは、未来の犠牲がどんなものであっても、自尊心が
高く、無自覚な国民に慰めを与えるのだ。

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  この記事も、単にA級戦犯合祀の問題だけでなく、靖国神社の歴史認識
と遊就館を痛烈に批判している。

  尚、この記事は、2005年6月30日に、カナダの地方紙『エドモン
トン・ジャーナル』に転載された。

  また、以上は、海外英語メディアの代表的な記事を列挙しただけで、小
さい記事も含めれば、氷山の一角にすぎない。

  そして、この後、フランスの有力紙『ル・モンド』も靖国神社批判を展
開した。
  また、西欧諸国のメディアの大半が、同様の記事を掲載していると考え
るのが妥当だと思う。

  メディアは、その国の国民感情を反映する。
 重要なことは、事態は、日本vs米国とか、日本vs英国とかの2国間
に留まらず、中国、韓国も含む大半の先進諸国の国民が、靖国神社の歴史
認識を批判しているということだ。

  これは、『朝日新聞』の2005年7月6日付朝刊13面に掲載された、
米ハーバード大社会学者のエズラ・ボーゲル氏のインタビューにおける、
米国の対日観についての、「日本は過去に悪いことをしたのに、それを認
めようとしないと思われている」という回答を裏付けている。
  つまり日本は現在、ABCD包囲網も真っ青の、四面楚歌に直面してい
るのだ。

  にもかかわらず、元外交官の岡崎久彦氏は、『諸君!』2005年8月
号41ページで、「欧米のメディアなどをみても、中国の反日姿勢に対し
て、だいぶ厳しい論調に変わってきましたね」と述べている。

 すでに外交官を引退した岡崎氏が、きちんと海外紙を読んでいないのか、
あるいは、戦前の体制を復活させたい彼が、戦前の政府さながらに読者を
だまそうとしているのかは定かではないが、もし彼が現役時代にこのよう
な感覚で外交官を務めていたのだとしたら、今の日本外交のトホホな現状
も、無理からぬ話というものだ。

 また、この『諸君!』2005年8月号の同ページでは、今をときめく
安倍晋三・自民党幹事長代理が、米政府要人に中国が共産党の正当性を反
日教育を通じて強調するために反日デモが組織化されていると説明する
と、「初めてそういう考え方を聞いた」という答えが返ってきたと述べているが、
 これなどは、相手が明確に安倍氏の見解に同意しているわけでなく、
 ”あまり深入りしたくない”という意思を反映した、米政府要人の技巧的
外交の典型といえよう。

 安倍氏は、この返答をもってして、米政府要人に「納得してもらえた」
と語っているが、外交というものに対する理解が、ちょっと幼稚ではなか
ろうか。

   米政府の巧みな外交辞令はこちら↓
    ・<番外編>米政府の自衛隊サマワ派遣延長工作
    ・大手英米メディアの自衛隊報道  
			<番外編> 米政府のブイブイ対日メディア攻勢4
    ・大手英米メディアの自衛隊報道  
			<番外編> 米政府のブイブイ対日メディア攻勢5

 そして安倍氏は、「我々の主張を一切展開しないために、あたかも日本
側に非があるような印象を強く与えてきたのです。つまり言論戦に負け続
けてきたのです。これではいけません」と結論づけているが、もし彼が、
この状況下で"日本は悪くない"と強硬に主張して、世界に納得してもら
えると考えているのであれば、戦前の日本同様、あまりにもノーテンキと
いうものだ。

 もっとも、戦前回帰をめざしているのなら、当然というべき思考パター
ンではあるが、その先の結末を、われわれの先祖が身をもって示してくれ
たはずである。

 最近、日本の大手メディアが、こうした海外からの批判を報じることが
めっきり少なくなり、前出の岡崎氏のような発言がまかり通ってしまって
いる。
  日本の大手メディアは、世界中に支局を置いているから、当然正しい状
況を掴んでいるはずなのだが、当の日本国民に、この異常事態が知らされ
ないのは、非常に不幸なことである。

  日本では、イヤなことがあると、"水に流す"、"臭い物には蓋"がよい
とされる傾向があるが、以上の記事を読んでわかるとおり、このような態
度は、とくに太平洋戦争に関して、大半の先進諸国には通用しない。

  国連安保理常任理事国入りウンヌン言う前に、敗戦60周年の今年、こ
こで目を覚まして過去を直視するか、それとも子供のように意地を張り続
けるか、選択しなければならない局面に来ているのだろう。

  2004年春からの自衛隊サマワ派遣すらロクに覚えていない日本人
の大半は、あの戦争での自らの行為を、きれいサッパリ"水に流して"
しまっているが、世界は、忘れていないのである。

続く