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小泉ニッポン!”北朝鮮ミサイル危機”劇場2

(報告:常岡千恵子)


  ところで、次は、だいぶ脇道に逸れるが、ちょっと気になるインドの新
聞記事の要約をお伝えしたい。

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『ザ・タイムズ・オブ・インディア』(インド)   2006年7月7日付
          −北朝鮮のミサイル・テストは、戦術的にインドに好都合
	  


  北朝鮮のミサイル花火は、思いもよらず、インド自身が抱える北朝鮮ミ
サイル問題に鋭い焦点を当てた。

  インドにとっては、一石数鳥の機会である。

  まず、インド政府がミサイル防衛について真剣に検討する立場を与えた。

  2番目に、インドは静かに米国と日本の当惑を味わうべきだ。
  これらのテストは、1998年以来、初めて北朝鮮が行ったもので、日
本を安全保障、とくにミサイル拡散の重要性と危険に目覚めさせるからだ。

  日本も米国も、パキスタンのミサイルが北朝鮮をルーツとすることを公
式に認めてこなかった。
  そして、日本はインドの核やミサイル懸念に対して、驚くほど鈍感だ。

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  北朝鮮のミサイル発射実験は、よほどインドの戦術に好都合だったのか、
ご存じのように、インドはこの2日後の2006年7月9日に、長距離弾
道ミサイル"アグニ3"の発射実験を行った。


  各国のメディアには、その国の本音が詰まっている。
  各国の政府は本音を隠して外交を進めるものだが、各国のメディアをウ
ォッチしながらその国の政府の動きを観察すると、その政府がどれぐらい
無理をしているのか、そして、今後どのように動くかを探る手がかりにも
なる。

  日露戦争時の児玉源太郎も、日本のメディアではらちがあかないので、
海外メディアをウォッチしていたことは、よく知られている。
  これ、軍事の常識。

  だからこそ、海外メディア・ウォッチは、やめられない?!


  さて、お次は、米政府の軍事オプションを探った記事の要約をご紹介す
る。

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『クリスチャン・サイエンス・モニター』(米)
                                             2006年7月7日付
          −米軍が、北朝鮮の牙を抜く選択肢は少ない
    米軍のいかなる行動も、この地域の米兵と同盟国に対する核の報復と、
                        新たな朝鮮紛争のリスクを負う
		  


  7月4日に北朝鮮が発射実験した長距離弾道ミサイルは、一説によれば、
米国の海岸に届くものだったとされるが、米国に対する最も明確なメッセ
ージは、現在悪名高いテポドン2ではなく、この日発射された他の6発の
ミサイルにある。

  北朝鮮の中距離射程ミサイル発射で、日本と韓国、あるいはそこに駐留
する米軍に核兵器を打ち込めることができるだろうことが確認された。

  その結果、米軍は、効果が証明されていないミサイル防衛に依存する、
手詰まりの軍隊だということが判明した。
  ミサイル発射台への精密誘導攻撃を含む、いかなる軍事行動も、この地
域の米兵と同盟国に対する核の報復だけでなく、朝鮮戦争の再開のリスク
を負う。

  一方、専門家たちは、テポドン2の性能については、懐疑的だ。
  北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射したのは、1998年以来、これが
2回目で、両方とも失敗に終わった。

  グローバルセキュリティの防衛アナリスト、ジョン・パイク氏は、「(ミ
サイルの)性能が確実だと判断するには、8回から12回の発射実験が必
要だ」と語る。

  さらに、別の専門家たちは、テポドン2の実際の性能や射程距離は、ほ
とんど謎だという。

  この時点で、有効な選択肢はほとんどなくなる。
  北朝鮮を覆う秘密主義は、各施設やミサイル発射場などの主要な目標の
位置だけでなく、攻撃に対する北朝鮮の反応を推し量ることも困難にして
いる。

  元国防長官のウィリアム・ペリー氏は、最近『ワシントン・ポスト』へ
の寄稿で、米国は北朝鮮の長距離弾道ミサイルが発射される前に破壊する
べきだ、と書いた。
  だが、これに伴う危険は、包囲されて必死に生き残ろうとする政権が、
どのように反応するか、ということだ。

  このため、米軍が駐留する日本と韓国にとって、軍事オプションは、考
慮に値しない。

  北朝鮮の陸軍は相当大規模だが、多くの専門家は、1950年代以来戦
っていない陸軍は大きな懸念ではない、という。

  むしろ専門家たちは、攻撃された北朝鮮が、核物質をどうするかを心配
している。

  地域的なレベルでは、ミサイル防衛のテストは、ある程度成功している。
  米海軍の軍艦から発射した迎撃ミサイルは稼動したが、比較的遅いので、
軍艦を直接狙っていないミサイルを破壊するのは、難しい。

  最初に湾岸戦争で使用されたパトリオット・ミサイルについては、  軍
はイラク戦争当初、パトリオットがイラクの多くのミサイルを迎撃したと
主張するが、批判者たちは、多くが迎撃しそこね、少なくとも1発は英国
の戦闘機を撃墜した、と反論する。

  米国本土防衛については、ミサイル防衛は苦闘している。
  2004年広範と2005年前半の、最近2回のテストでは、発射すら
しなかった。

  1994年から2001年まで国防総省で運用テストのディレクター
をしていたフィリップ・コイル氏は、「残念なことに、まだ頼れるもので
はない」という。

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  それでは、再び米政府の選択を示唆する記事の要旨に戻ろう。

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『ロイター通信』(英)                      2006年7月9日配信
          −北朝鮮の交渉復帰に焦点が移行



  日曜日、米政府と韓国政府が、日本政府が主導する動きから距離を置き、
北朝鮮のミサイル危機に対する外交的解決を探る動きに、はずみがついた。

  先週、北朝鮮政府が国際世論を無視してミサイル7発の発射実験を行っ
た後、日本は米国、英国、フランスの支持を得た国連決議で、北朝鮮のミ
サイル計画に制裁を科そうとした。

  だが、安保理で拒否権を持つ中国とロシアの強い反対に、日曜日、米国
の北朝鮮への使節のトップが、北朝鮮を交渉に復帰させるという中国政府
の提案を支持した。

  韓国は、国連による制裁は、現在の危機の解決も、この地域の安定化も
助けない、と述べた。

  日本の麻生外相は、日曜日に日本政府は制裁の要求を譲歩しないと述べ、
強固な姿勢を示した。

  だが、米国のヒル国務次官補は、ソウルで、「私の任務は、制裁を決め
ることではない。私の任務は、われわれが声をひとつにすることだ」、「(北
朝鮮は)交渉の場に戻り、すでに合意した事項を実施する必要がある」と
語った。

  ヒル氏は、6カ国協議の枠組みの中で、米国と北朝鮮の二国間協議を行
う可能性もあるという米政府の立場を繰り返して述べた。

  ブッシュ氏は、6カ国協議の枠外で北朝鮮と交渉することを何度も否定
し、国際社会は一致した対応をするべきだと主張している。

  韓国は、火曜日に北朝鮮と閣僚級協議を行うと述べた。
この協議は、北朝鮮のミサイル・テスト以来で初めての北朝鮮との最高
レベルの接触となる。

  韓国のソン・ミンスン統一外交安保政策室長は、協議の2つの重要議題
は、ミサイル問題と核交渉になる、と語った。
  これは、経済協力に焦点を当ててきたこれまでの南北の閣僚級協議から
の、飛躍となろう。

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  お気づきのように、この頃、日本で盛んに流れていた"中国の孤立"と
は、だいぶ様相を異にする。
  下手をすると、ズレていたのは、わが祖国・日本?

  しかも、上の報道は、事件の当事者ではなく、第三者として客観的に観
察できる立場にあった英国の大手メディアによるものであることも、補足
しておきたい。


  続けて、米国の大手メディアの報道の要旨をご紹介する。

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『クリスチャン・サイエンス・モニター』(米)
                                               2006年7月10日付
          −米国は、中国の北朝鮮への影響力を待望;
               中国の代表団が月曜日にピョンヤンを訪問し、
         キムのミサイル発射で引き起こされた危機について協議

		  


  月曜日、ピョンヤンで、中国当局者2人を通じて、ブッシュ大統領から
北朝鮮のキムジョンイル氏に当てたメッセージが届けられる。

  中国は、非公式の6カ国協議を提唱した。

  これは、米国が中国に期待したもの以下である。
  だが、ヒル国務次官補によれば、中国は国連による制裁決議に対して拒
否権を行使すると主張したので、米国は6カ国協議に合意したという。

  中国政府は、反抗的なキム氏に世界がどう対処するかを決める、鍵のよ
うに見える。
  だが、キム氏のミサイル発射時から、中国はその影響力を否定し、丁重
に主役は米国だと主張している。

  インターナショナル・クライシス・グループのソウル支部による最近の
報告書には、「中国の北朝鮮に対する影響力は、中国が認める以上のもの
だが、アウトサイダーが信じがちなものよりはるかに小さい」とある。

  香港のシティ大学のジョーゼフ・チャン氏は、「中国は影響力を持って
いるが、強調しすぎることを怖れている」と言う。

  7月4日のミサイル発射以来、クリントン大統領の国家安全保障担当補
佐官だったサンディ・バーガー氏からボルトン国連大使まで、「中国が鍵
だ」と主張してきた。
  米政府内では、これはマントラに近いものになった。
  12ヵ月前、ホワイトハウス高官の間では、見当違いか否か、中国がキ
ム氏の核計画を中止させるというのが信条であった。
  だが、これは起こらなかった。

  そのかわり、米国がイラクに専念する間、中国は静かに、北朝鮮を強化
するという、自らの国益を優先させる政策を採った。
  この政策は、北朝鮮を韓国との間の"緩衝国"として維持することを助
ける。

  過去2年間、中国当局者たちは、キム氏に対し、中国のように社会主義
を維持しながら改革ができる、と述べてきた。
  中国は、彼が政権を完全に維持しながら、経済的に支援すると示唆して
きた。
  消息筋は、今、キム氏を厳しく非難すれば、この方式が崩れる、という。

  もっと広い意味では、長年の敵である日本と東アジアの米軍基地を攻撃
できるミサイルの発射は、中国を、北朝鮮と国際社会で形成しつつあるコ
ンセンサスのどちらを選択するか迫られる立場に追い込んだ。
  これまでのところ、中国は双方を喜ばせようとしてきた。

  さらに、中国で未解決なイデオロギー闘争が、中国政府にとって問題と
なっている。
  また、中国政府内には、キム氏にどう対処するかでも戸惑っている。
  キム氏の父親のキムイルソン氏は、キム氏に、中国がいつの日か政権を
奪取するだろうと何度も警告した。

  中国は、核を持った朝鮮半島のミサイル発射実験には、反対するだろう。
  だが、具体的に、どのようにしてキム氏の統制国家を開き、国際的視察
団を入国させるかは、不明だ。
  ホワイトハウスは、この点を理解しているようだ。

  日曜日、バーンズ国務次官は、FOXニューズの番組で、「中国が、北
朝鮮に対する影響力を行使する時だ」と主張した。
  また、米日の当局者たちは、日曜日に、日本が支持する対北朝鮮制裁を
求める決議の採決を行うかもしれない、と主張した。

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  中国への期待を諌める論評だが、逆説的に、いかに米政権内が"中国が
鍵だ"というムードに占められていたかが読み取れる。

  次は、米有力紙の社説の要旨をご紹介する。

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『ニューヨーク・タイムズ』(米)            2006年7月10日付
          −朝鮮に関する国連の余興



  国連安保理は、先週の北朝鮮のミサイル発射に対する、国際的批判を表
明するべきだ。
  だが、この件や北朝鮮の核問題について、重大な進展を促すのは、安保
理決議でも制裁でもない。

  (北朝鮮に対して)本当に影響力を持つ国は、米国、中国、韓国の三カ
国だが、いずれも、北朝鮮により挑発的でない針路を取らせるために全力
を尽くしていない。

  先週のミサイル発射は、即時に北東アジアの安全保障の構図を複雑化し
たが、これは安保理からの強制的処罰を正当化するような、国際法違反で
はない。(昨日、インドは核搭載可能なミサイルの発射実験を行った)

  ブッシュ政権は、直接対話への反射的な拒否を改めるべきだ。
  だが、対話を設定する前に、米政府は北朝鮮に対して、長距離弾道ミサ
イルの発射実験の停止と、これを恒久的禁止の交渉が行われる最低1年間
は確実に守ることを要求するべきだ。

  この直接対話では、北朝鮮の核兵器計画についても話し合うべきだ。

  北朝鮮を満足な条件で合意させるには、中国と韓国からの圧力も必要か
もしれない。
  中国からの最も効果的なシグナルは、短期的な石油供給の凍結だ。
韓国は、今週予定された、閣僚級協議をキャンセルできるだろう。

この三カ国にとって、最も緊急な目標は、再び北朝鮮が長距離弾道ミサ
イルを発射実験しないよう、説得することである。

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  以上、代表的なごくごく一部の報道をご紹介したが、このところ疲弊の
著しいブッシュ政権の、"中国にお任せ"という態度が感じられるような
報道で、日本中を席捲した、"中国が安保理で拒否権をちらつかせ、深刻
に孤立"という雰囲気は、あまり伺えない。

  過去数ヶ月間、米メディアをフォローしていると、イラクとイランの問
題を抱え込んだ現ブッシュ政権が、もはやイラク戦争開戦当時のイケイケ
ドンドンの勢いは見る影もなく、だいぶヨロヨロしていたことがうかがえ
る。

 しかも、米メディアの報道からすると、米政府高官たちは、公式の記者
会見の場でも、6カ国協議と中国を強調していた様子。

  なのに、日本の大手メディアは、ほとんど国連安保理のみにとらわれ、
決議採決延期まで、"ニッポン、ワッショイ!"の大合唱を続けていた。

  それはまるで、第一次世界大戦の終焉とともに植民地主義が流行遅れに
なったことに気づかず、猪突猛進しちゃった、かつての日本人のようであ
った。

  軍事・外交というのは、相手があって成立するもので、まず相手をよく
見ることが基本だと思うんですけどぉ。 

続く