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小泉ニッポン!”果敢の先制攻撃”劇場3

(報告:常岡千恵子)


 北朝鮮のミサイル発射実験に対して、"先制攻撃論"まで唱えちゃった
小泉ニッポン!
 引き続き、海外英文メディア(中国と韓国は除く)による日本の北朝鮮
ミサイル危機対応報道の要旨をじゃんじゃんお楽しみいただきたい。

 "いわゆる敵基地攻撃論"は"先制攻撃論"であることのおさらい↓
  >>小泉ニッポン!”果敢の先制攻撃”劇場 1


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『シドニー・モーニング・ヘラルド』(オーストラリア)
     2006年7月11日付
     −日本がミサイル基地攻撃能力保有を検討
	  


 米国が外交で北朝鮮政府の脅威を緩和できるだろうと主張している
にもかかわらず、日本政府の政治指導者が、日本は北朝鮮の軍事基地に
先制攻撃を仕掛ける能力を求める、と語った。

 先制攻撃の「議論を深める」と唱える者の中には、9月に首相になる
可能性の高い、日本で最も人気のある政治家の一人の安倍氏がいる。

 また、額賀防衛庁長官も、敵国が「引き金に手をかけたという時であ
れば」日本は攻撃できるようにするべきだ、と先制攻撃論を唱える。

 麻生外相も、「被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」と述
べた。

 一方、中国はピョンヤンに代表団を派遣した。

 韓国は、予定された北との協議を行うことになっている。

 ヒル米国務次官補は、北京とソウル訪問後、東京で、一致した外交努
力を主張した。

 しかしながら、日本が提出した国連決議案に対し、中国やロシアが拒
否権を行使する模様だ。

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 上のオーストラリア紙の記事は、同日、オーストラリアの『ジ・エイ
ジ』にも掲載された。

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『ジ・オーストラリアン』(オーストラリア)2006年7月11日付
     −ミサイル対応をめぐる分裂
		  


 昨日、韓国と日本が、北朝鮮のミサイル・テストへの対応をめぐって
公式に争い、関係諸国が"ひとつの声"で対応するよう働きかけている
ヒル米国務次官補の足を引っ張った。

 昨日、日本の安倍官房長官が、日本の対応に対する韓国のノムヒョン
大統領の批判を「残念だ」と述べた。

  日本と韓国の関係は、小泉首相の靖国神社参拝や、領土問題、キムジ
ョンイル体制への対応についての意見の食い違いで悪化し、過去20年
の間の最低レベルにある。

  北朝鮮のミサイル・テスト以来、ソフトなアプローチを取り続けてき
たノムヒョン大統領は、ミサイルについては公的発言を行わなかったが、
大統領府は日本のアプローチを批判する声明を何度か出した。

  両国の争いは、ミサイル・テストについての共同の批判と、6カ国協
議再開を取りまとめようとしていたヒル米国務次官補に、さらなる困難
を与える。

  しかしながら、北朝鮮への制裁に反対する中国と韓国は、独自の外交
的アプローチに邁進している。

  中国の代表団は、ピョンヤンに到着した。

  韓国の閣僚たちは、本日、プサンで北の閣僚たちと会談する予定であ
る。

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『オーストラリアン・ファイナンシャル・リヴュー』(オーストラリア)
                                         2006年7月12日付
          −日本がミサイル騒動を加熱させる



  昨日、北朝鮮への対処をめぐる分裂がさらに広がった。
  この孤立した共産主義国の兵器を破壊するために先制攻撃を行うと
いう日本の脅しを、韓国が猛烈に攻撃したのだ。

  アジアにおける、オーストラリアに次いで重要な2つの米国の同盟国
間の相違は、北朝鮮の核の野望を抑えるために共通のアプローチを模索
することの難しさを強調した。

  この衝突は、米国と日本が迅速な国連安保理決議案採決を見送り、中
国に北朝鮮から譲歩を引き出す機会が与えられたときに起こった。

  今週前半、日本の閣僚たちが、日本は、軍隊の役割を自衛に制限した
戦後の平和憲法下で、北朝鮮の軍事施設に先制攻撃能力を保有できるか
検討する必要がある、と述べた。

  アジアの二大経済大国間の争いに、ホワイトハウスのスノウ報道官は、
直ちに、北朝鮮の核への野望はアジアに軍拡競争を誘発する可能性があ
る、と警告した。

  だが、アナリストたちは、一部の米政府当局者が、日本の核武装の可
能性を示唆して中国に間接的に圧力をかける一方、韓国の一部には最終
的には北朝鮮の兵器施設の引き継ぎたいという期待もあることから、核
兵器戦略が複雑なものになっている、と語る。

  昨日、韓国は、北朝鮮と過去1年間で最高レベルの協議を準備して
いた。

  米国が中国に対して北朝鮮に6カ国協議復帰を説得するよう圧力を
かけるなか、中国と北朝鮮の政府高官も、ピョンヤンと北京で会談を行
っている。

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『ジ・エイジ』(オーストラリア)           2006年7月12日付
         −米国がアジアの軍拡競争を警告

		  


  米政府が、北朝鮮危機がこの地域に軍拡競争を生じさせるかもしれな
いと警告し、昨日は、日本を落ち着かせようとしていた様子だった。

 ホワイトハウスのスノウ報道官が、米国と中国は核抜きの朝鮮半島を
望み、「この地域での軍拡競争を回避」したいと述べた。

 月曜日、日本の安倍官房長官が、将来的な北朝鮮への先制攻撃を提唱
し、法的な議論を深めたい、と述べた。

 この地域の安全保障アナリストは、安倍氏の発言は、北朝鮮を説得し
ている中国にさらなる圧力をかけるもので、もし軍拡競争が始まるとす
れば、主として中国と日本の間になるだろう、と語った。

 北朝鮮に対する今後の先制攻撃論は、韓国を警戒させ、韓国大統領ス
ポークスマンが、「日本の侵略的政策の性格をあらわにした」と述べた。

 昨日、中国の代表団が、北朝鮮を核兵器開発中止の交渉に復帰するよ
う説得するため、ピョンヤンに到着した。

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  尚、上の記事は、同日、オーストラリアの『シドニー・モーニング・
ヘラルド』にも掲載された。

  ご覧のとおり、オーストラリア紙の論調は、戦時の日本によるオース
トラリア人捕虜の残虐な扱いもあって、日本に対して辛口だ。
 どうやら、他国は活発な外交努力を続けているのに、日本は大騒ぎし
てるだけ、と受け止めている様子。

  他方、オーストラリアは中国とのビジネスが大成功を収めているため、
全般的に中国への期待感が大きい。

  中国びいきのオーストラリア↓
  >>小泉ニッポン!”果敢の先制攻撃”劇場 1


  というわけで、安倍晋三氏が唱える、日米豪印による中国囲い込みが
どこまで現実的なものなのか、しっかりと見極め、"議論を深める必要"
があろう。

  さて、次は、ある米紙の社説の要約をご紹介する。

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『アリゾナ・デイリー・スター』(米)   2006年7月12日付
     −北朝鮮の行動が、日本のタカ派を後押し



 北朝鮮のキムジョンイルが、先週のミサイル・テストで、地域の断層
に新たな亀裂を発生させることを望んでいたとすれば、彼はすでに成功
を祝っているかもしれない。

 キム氏の大胆な行動は、一方に米国と日本、もう一方に中国と韓国と
いうかたちの分裂を生み、緊張を掻き立てた。

 その上、中国政府に懐疑的で、日本の軍隊と米国との軍事同盟の強化
に熱心な、日本のタカ派の思うつぼにはまった。

 アナリストたちは、小泉首相の後継レースが、これらの保守派の北朝
鮮政府に対する強硬姿勢に拍車をかけている、という。

 慶応大学の小此木政夫教授は、「自民党総裁選を意識した、首相官邸
主導によるもので、外務省の従来の方針より強硬だと思う」と語った。

 このミサイル・テストは、日本政府が先制攻撃能力を保持すべきかど
うか、そしてそれが平和憲法に違反するかどうかの議論を再燃させた。

 戦略国際問題研究所太平洋フォーラム調査部長のブラッド・グロッサ
ーマン氏は、「これは、中国が日本にしてもらいたくないだろうことを、
日本が行うための機会と理由付けを与える」、「日本をより米国寄りにし、
軍事費増額のための地盤をつくり・・・そして、戦力投射能力の取得と
ミサイル防衛推進の弾みをつくる」と語った。

 中日関係は、すでに地域での優位性をめぐる競争や、相互の軍事的野
望に対する猜疑、日本の過去の軍国主義のシンボルとみなされている靖
国神社への小泉氏の参拝で、悪化している。

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 以下、日本政府の"先制攻撃論"に対する各国メディアの反響の要旨
をどんどんお伝えする。

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『ビジネス・タイムズ・シンガポール』(シンガポール)
                    2006年7月13日付
     −ミサイル攻撃:誰が先か?
 先週の北朝鮮政府のミサイル発射で、日本の政治状況が劇的に変化
		  

 先週の北朝鮮のミサイル発射だけでは足りないかのように、月曜日、
日本の安倍官房長官が、日本政府は近隣国への先制攻撃を検討しなけれ
ばならないかもしれない、と逆襲した。

 これは、北朝鮮政府の行動の結果、ほぼ確実に次期首相になると目さ
れる人物から発せられた言葉として、恐ろしいものがある。

 北朝鮮のミサイルが日本海に着弾した瞬間から、日本の政治状況は劇
的に変化した。
 安倍氏ならびに、彼と同程度にタカ派の麻生外相がテレビに頻繁に登
場し始め、北朝鮮への制裁を迫り、日本独自の対抗措置について強硬な
口調で語った。

 『ジャパン・タイムズ』は、麻生氏が、日本が急迫な攻撃の脅威にさ
らされていると判断したときは、外国のミサイル基地を攻撃する権利が
ある、と述べたと報じた。

 実に、(ジョージ・W)ブッシュ・ドクトリンの先制攻撃論が、日本
政府に移ってきたわけだ。
 彼は、額賀防衛庁長官が、日本は必要ならば、最低限の先制攻撃能力
を保持するべきだと示唆した翌日に、この発言を行った。

 日本国民も、平和憲法を破棄する用意がある様子で、世論調査では安
倍氏の次期首相としての支持率が急上昇した。

 これによって、多くのことが動き出したが、日本と北朝鮮の軍事的対
立の恐れは、そのひとつにすぎない。

 安倍氏は、論争の的である小泉氏の靖国神社参拝に同情を示し、自民
党総裁選で首相になったら参拝を続けるとほのめかした。
 この問題で安倍氏が自民党総裁選で不利になるかもしれないという
不安があったとすれば、北朝鮮政府が彼に勝利を差し出したようなもの
だ。

 安倍氏が勝利をつかめば、日本の中国と韓国との外交関係は、ほぼ確
実に、寒冷状態から凍結状態になるだろう。


続く